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“ひらめき力”を磨くヒント
常識にとらわれず、自由に発想する「ラテラルシンキング」。
ラテラルシンキングによって成功したエピソードをもとに、“ひらめき力”を身につけるコツをご紹介します。

「自動改札機を混雑させずに、
運賃計算をする」
解決のための新しいアイディアとは?

vol.1

ICカードをタッチしてから、通り過ぎるまでの時間。
そこに隠された開発者の苦悩

JR東日本のSuicaをはじめとする共通乗車カード・電子マネーの普及によって、ICカードさえあれば大抵の交通機関を利用できるようになりました。乗車のたびに切符を購入する必要がなく、利用者にとってはとても便利なシステムです。

当然のことながら、ICカードをタッチして通り抜けるまでの間に、自動改札機は運賃計算をしています。ですが、それこそが開発者の頭を悩ませる原因でもありました。

運賃計算には、一定の時間が必要です。とくに、他線への乗り換えをした場合は計算が複雑になり、処理時間が長くなります。その間、人が通り抜けないように出口を閉じてしまうと、人の流れが止まり、混雑や思わぬ事故を招いてしまう危険もあります。

それでは、「運賃計算に時間がかかる」問題を解決するには、どのような方法が考えられるでしょうか。解決法を考えてみてください。

ICカードの導入によって、乗車や他線への乗り換えが便利になった

解決のカギは、「処理速度」でも「設置数」でもなかった!

物事を考えるときの思考の一つが論理的思考、いわゆる「ロジカルシンキング」です。Aを解決するにはBが問題、そのためにはCをしなくてはならない、というように物事をA→B→Cと順序立てて考え、解決法を導く方法です。極めて常識的で、ビジネスにおいても多用されている考え方です。

さて、自動改札機の問題をロジカルに考えた場合、次のような解決法が挙げられます。

  • 自動改札機のコンピューター処理速度を上げる
  • 自動改札機を増設する

「複雑な運賃計算に時間がかかる」→「今のコンピューターシステムでは処理しきれない」→「コンピューターの処理速度を上げればいい」。確かに理にかなった答えです。ただ問題は、コンピューターの処理速度を上げるのはそう簡単ではないこと。また、技術開発には、時間、労力、お金などあらゆる投資が必要です。

それでは、「自動改札機を増設する」はどうでしょう。
「複雑な運賃計算に時間がかかる」→「改札機の数が少ないと、計算の間、人を待たせてしまう」→「増設して一度にたくさんの人を通せばいい」。これも理にかなった方法です。ですが、増設するにはそれだけのスペースとお金がかかります。また、混雑する時間帯以外は、スペースが無駄になってしまうケースも考えられます。


では、開発者たちはどのようにして問題を解決したのか。
答えは、「自動改札機そのものを長くした」のです。

エドワード・デ・ボノという心理学者は、人は「思考のパターン化」が起きやすく、それはバターにお湯を垂らすようなものだと言っています。どういうことかというと、バターの上にお湯を垂らすと、バターが溶けて溝ができますよね。何度も何度もお湯を垂らすと、その溝はどんどん深くなります。その溝を深くする行為が、まさしく「勉強」や「知識」。専門であればあるほど知識の溝は深まり、その溝から容易に抜け出せなくなり、思考がパターン化してしまうのです。

今回の問題でいうと、専門家であるほど、「コンピューターシステムの処理速度」や「数」に着目し、問題解決の糸口を見出そうとする傾向があります。ですが、そもそも、自動改札機を通り抜けるための時間はどれくらい必要でしょうか。改札を抜け、ホームや出口までスムーズに人が歩けるのなら、改札機を通り抜ける時間を短くする必要はありません。それなら、自動改札機を長くして、運賃計算に必要な分だけ人を歩かせ、計算する時間を稼げばいい。そうすれば、人の流れを止めず、混雑を防ぐことができます。その結果、技術開発や設置にかかる時間、労力、お金、スペースを全て省略し、問題を解決することができたのです。

自由に発想する「ラテラルシンキング」

今回のケースでは、「そもそも自動改札機は早く通り抜けなければいけないのか」「早く通り抜けなければいけない理由は何なのか」と考えたことが、成功につながりました。
このように、A→B→Cと順序立てて考えるのではなく、A→G→Eとまったく新しい方向に発想することを「ラテラルシンキング」(水平思考)といいます。

論理的に考え、「処理速度」や「設置数」に着目するのではなく、「改札機の長さ」に解決の糸口を見出したこと。「改札は早く通り抜けなくてはならない」という前提や常識を疑い、思い込みを見直したことが新しい発想へとつながったのです。

“ひらめき力”のポイント
「前提」や「常識」を疑い、
「思い込み」を見直すことから
ひらめきは生まれる

PROFILE

木村尚義きむら・なおよし
経営コンサルタント。ソフトウェア開発会社勤務、OAシステム販売会社、パソコンショップの立て直しなどを行い、外資系IT教育会社に転職。その後、創客営業研究所を設立。六本木ライブラリー、メンバーズコミュニティ個人事業研究会会長なども務める。著書に『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』など。

記事公開:2017年5月