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山口県宇部市にある山本写真機店。今回、僕は、ここで「宇部を向いて歩こう」というタイトルのワークショップを開催するべくやってきました。下関市、山口市につづき、人口17万人を擁する宇部市ですが、地元の方に「宇部のオススメは?」と聞いてみても、みなさん控えめなのか、はっきりとした答えが返ってきません。けれど、そんな宇部の町にも宝物はあるはずと、カメラを持って町を歩き、宇部の魅力を町の人たちとともに再発見しようじゃないかと、山本写真機店の店主、山本陽介くんに提案したのがこのワークショップ。

しかし、そもそもワークショップを開こうと思ったきっかけは、単純に久しぶりに山本写真機店に行きたかったからでした。というのも、僕は約3年前に山本陽介を取材していました。そこから写真屋さんを取り巻く状況はさらに変化し、今年の春にお店をリニューアルしたと聞いて、新しくなった山本写真機店をきちんと見ておきたいと思ったのでした。

※以前に山本写真機店を訪ねた記事はこちら。

藤本:落ち着くなぁ。良い空間になったね。改装してどれぐらい?

山本:今年の5月17日にリニューアルオープンしたんで、半年経ちました。工事にかかるまでの、考えていた時間がけっこう長くて。あと工事自体もめっちゃ長くて、足場がかかってから1ヶ月くらい何もせんやったんですよ。

藤本:それは悩んでたってこと?

山本:はい。そもそもここは、飲みにいった先の居酒屋の兄ちゃんが元外装屋で、その子に作ってもらってるんですよ。「簡単に貼るやつでちゃっちゃっと終わらせましょうよ、そしたら安くなるし」っていうので「まったくわからんけぇ、まかせるわ」って投げたんですよ。で、一生懸命その子がクレヨンとかで描いた絵を見たときに、これはどうかなぁと思って。でも任せるって言った手前、嫌だって言いづらいじゃないですか。でも、「気にせずにこうしたいとか言ってくれていいんすよ」って言ってくれて、そこからいろいろ考え出して。

藤本:なるほど。

山本:内装は思いのほかすぐイメージができたんですね。以前は店の手前にあったオーダーキャッチャー(デジカメプリント店頭注文機)を奥に置くことで、商品を見てもらおうとか。あと、いろんなのが入り乱れてたんで、注文する場所と買い物する場所と、みんなが写真持ちよってワイワイする場所と、分けたほうがいいのかなとか。


店内の棚には自らセレクトして、仕入れ交渉した写真関連雑貨がたくさん。

でも、外装は何回も悩んで。最初はメガネ屋みたいやったんですよ。しかも店名も英語に変えようとしてたんです。藤本さんからもわざわざ電話かかってきて言われましたけど(笑)、みんなに「やめたほうがいい」って言われて。でも僕、最終的には自分で納得して決めたい主義なんで。だから意固地になって「絶対英語の名前にする!」って(笑)。

藤本:(笑)。

山本:でも、最後にもう1回だけ、現在の「山本写真機店」で考えてみようと思って、今のロゴの原型をフェイスブックにあげてみたら、みんな「そっちがいい」って言ってくれたんですよ。それで結局そっちに変えたんです(笑)。古いお客さんの中には、それを喜んでくれる方もいたし、「名前変えます」って言ったら、「もう来ん」って言ってた人もいたけど、でもいざお店が新しくなったとき、ちゃんとみんな来てくれたんですよね。それで「山本写真機店にしたんですよ」って新しいロゴ見せたら、すごい喜んでくれて。だから間違ってなかったなと思ってます。

僕がいけなかったとこって、こうして新しいことを始めようとした時に、今のお客さんじゃなくて、これから来るであろう新しいお客さんのことばかり考えてたところなんですよね。だけど、今回こうして昔からのお客さんが喜んでくれたのはほんとに良かった。そういう人たちをないがしろにしていろんなこと進めても意味ないって気づけたことも含めて。

藤本:前に来たときはお父さんがおられたけど、今は?

山本:引退したというか…親父が働いていた小野田店を去年の12月で閉めたんですよ。でもこうやって改装するにあたっても、口も出さんし手も出さん、自由にやらせてくれて。売上自体は、リニューアルしてからは、去年の小野田店と2店舗分の売上よりも全然いいので、間違ってなかったなと思います。


様々なお店を見て研究し、陽介くんが自分なりに考え、作り上げた内装。

藤本:陽介くんと言えば、写真教室「cheeeese!!(チーズ)」をはじめたことがとても大きいと思うんだけど、写真教室を続ける中で、変わってきたことってある?

山本:けっこうありますね。今年で7年ですが、1年で4期だから、今の生徒さんが28期生で。卒業してからは、卒業生が集まる「cheeeese!! CLUB」に入って作品撮りをしてもいいし、入らずにただL判プリントをうちへ焼きに来てくれるだけでもいいし。作品ってことにこだわらなくなってきました。

藤本:もともとはマニアックに写真好きの人が作品を撮って引き伸ばして焼いてっていう世界だったのが、シンプルに写真ていいなっていう人がcheeeese!!を見つけて学んで、それで卒業したからって、作品づくりしなきゃ、ってことではなくなってるってことかな。

山本:はい。僕も作品撮りだけが正解だと思わなくなってきて。そういうのだけになっちゃうと、家族や友達の写真って撮らなくなるんですよね。時代も変わってきたんで、出口からの選択肢は増やすようにしたいなって。お店のリニューアルも含めて一番根っこにある想いは……写真ってプリントせんと意味ないと思うんですよ。語弊があると思うけど(笑)。プリントして、アルバムに入れるまでせんと、撮ってもなんの意味もないと思う。のこんないって絶対わかってるから。それは真実と思うんですよね。だけどそれを、いきなり初対面の人に伝えても、ぜったい通らないと思うんですよ。ある程度つながってからじゃないとしゃべれないことってあるじゃないですか。写真教室もリニューアルもその関係を築くためというか……。

藤本:最終的にそこを伝えたいんだね。

山本:そうですね。雑貨屋みたいになったねって言われるんですけど、こういうのを置くことによって、最初はそこまで写真に興味なかった人が写真屋に来て、写真に関心を持ってくれるかもしれない。僕らと話しているうちに、プリントしようって思ってくれるかもしれない。

藤本:以前、陽介くんに話を聞いたとき印象的だったのが、写真好きで何本もレンズ持って何枚も作品を引き伸ばしてプリントしてたような人が、いざ奥さんが亡くなって遺影を注文しようっていうときに、奥さんの写真を1枚も撮ってなかったから、集合写真からトリミングして引き伸ばさざるをえなかったっていう話。身近な人の写真をのこすことの大切さ。そういう想いは今も変わらないんやね。

山本:全く変わってないです。例えば、僕は写真の先生なのに、家族写真しか撮ってないんですよね。みんなは撮りたい写真を撮ったらいいんですよって言うんです。cheeeese!!では、最初に「僕はみなさんに3ヶ月間、技術を教えます」って言うんですよ。技術って、こうしたらこうなるっていうのが分かること。例えば、人の髪切れって言われたら怖くて切れなくないですか? でも、美容師さんは迷うことなく切るでしょ。それは、こうしたらこうなるっていう技術に基づいた未来のイメージができるから、切れるわけです。それと一緒で、写真の技術について教えていきますって言うの。一方、感性は自分で育めるもの。写真以外の芸術に触れたり、例えば美術館行って帰り際に背筋が伸びる感覚とか、ああいう体験で感性って伸びていくものやと思うんですね。だから、それは自分自身で育ててって言うんですよ。

藤本:やるなぁ。やってきたね、7年。さすがの言葉だよ。

山本:僕は、「50分の2」っていう話をよくしてて。写真の宿題でも、50枚撮って2枚いい写真が撮れましたと。その2枚だけ「いいのが撮れたんです」って見せられたとき、それは一緒に喜びましょう、と。だけど、残りの48枚も、撮るときはいいなと思って撮ってるんですよね。だけど、結果うまく写らなかった。そっちのほうが見たいんですよっていう話をする。それを見て、こう撮りたかったけど撮れなかったんですっていうのに対して、なるべく感覚的ではなく技術的に3ヶ月教えていくからと。だからいいのも悪いのも焼いてねって言うんですよね。プリントに慣れてもらうっていうのもあるし、焼いてみたらこっちのほうがいいじゃんっていうが多々あって。それに写真って、後で見返したら、これいい写真やっていうの山ほどあるでしょ。それは、撮ったときと感性が変わってるからいいって思えるんですね。それを僕に見せることによって、僕はこれすごくいいと思うって言うことによって、感性がどんどん広がっていく感覚ってあるじゃないですか。そういうことも教えたりしつつ。

藤本:素晴らしい。

山本:そしたら撮ること自体も楽しくなるし、最終的には技術を教えることが目的じゃなくて、写真が楽しくなってくれたらいいっていうのが一番の目的としてあるんですよ。卒業生は、全部でもうすぐ300人くらいですね。家のプリンタでプリントする人もいるから300人が皆お客さんになってるかっていうと、またそれは違うんですけど、ただ、何かあったときに来てくれるじゃないですか。


チェキを使った今回のワークショップ「宇部を向いて歩こう」にて、
参加者のみなさんが写した成果を一緒に見る陽介くん。

藤本:そういうのが全部つながってのリニューアルなんやね。だから売上もちゃんと上がってるってことやね。

山本:そうですね。とにかく僕はコンプレックスの塊やったんです。全国の店を回ったときも、うまくいっている店どこを見ても「いいなぁ」って思ってた。宇部の町自体にもそういう気質がある気がして。よそのものに対する憧れがすごく強くて、「宇部は通過点です」とか普通に言っちゃうくらい、自分の町に対する愛着がない。だから今回企画していただいたワークショップで、僕も含めてそんな町の人たちの意識を少しでも変えられたらいいなと思うんです。

写真屋さんが大変な時代にあって、リニューアル後、きちんと売上を伸ばしている彼は、お父さんのもとで働いていた3年前と違って、とても逞しく成長していました。彼の成長がお店の成長とまっすぐリンクして、そしてこの町で写真やプリントを愛する人たちが確実に増えているという事実。そこに僕は、写真を取り巻く幸福な未来の、大切なヒントがあると思うのです。


(左上)行きつけの喫茶店「じゃがいも」で店主を撮影する陽介くん。
(右上)歯ごたえがしっかりとした宇部のかまぼこは、山口県が誇る名産品です。
(左下)市内のマンホールには、宇部市ときわ公園のシンボルである白鳥がデザインされています。
(右下)皿の真ん中に載るのは、中国野菜のサイシンとブロッコリーかけあわせた山口県の新しい野菜「はなっこりー」。まるで菜の花のよう。

山口県宇部市中央町1-9-15 TEL:0836-31-5005 http://yamamotocamera.jp
「おもしろ写真教室cheeeese!!」http://www.cheeeese.jp

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