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今回僕がむかったのは名古屋。名古屋といえば、駅地下にオープンした「memini」さんや、一足早く女子カメラ層をターゲットにした「ダイヤモンドカメラ chou-choute(シュシュ)メイチカ」さんなど、従来の写真屋さんから大きくそのイメージを転換させた人気店がある地域。しかし今回僕は、あえてそういったお店ではなく、これからの写真屋さんのあり方を考える上で、今とても重要だと感じているお店を取材することにしました。それはイオンモールにある「ダイヤモンドカメラ ナゴヤドーム前店」。

その副店長として働く本田知子さんとの出会いが、このお店を知ったきっかけでした。僕自身が企画した写真関連イベントに、その場所を問わず、名古屋から足繁く通ってくれた彼女が、実は写真屋さんで働いていると知ったのは最近のこと。今回はそんな彼女の声を聞いてみようと思うのですが、と、その前に、どうしてもお話を聞いておきたい人がいました。ダイヤモンドカメラの母体でもある株式会社トーアフォートの部長さんで、先述のとおり、いち早く女性をターゲットにしたあたらしい写真屋のカタチを提案した「chou-choute」の企画者でもある田村さんという男性。まずはこちらから読んでみてください。

田村:初めてカメラ好きの若い子の非常にハイキーな色の薄い写真を見たときは驚きましたね。「私たちはこれが好きなんだ」と言われても、我々の目から見ると「褪色しちゃったの?」って感想(笑)。でも、「そういう色がいいんだ」って。それを聞いてすごいショックを受けたんですよ。で、そのうちにそういう動きがどんどん広がっていって、特に若い女性たちがフィルムカメラを使って、「ふんわりした写真」とか「柔らかい写真」という言葉を使って表現し始めた。我々はもともとフィルムで仕事してるから、ふんわりだとか柔らかいなんて言われても、「そりゃあフィルムはそうだけど」ってくらいの感覚で(笑)。

藤本:(笑)。

田村:デジタルが主流になったとき、自分の中では「ああ、フィルムはフェードアウトかな」って思ったんですよ。でも、そうやって意外なところで復活をし始めて。それを一生懸命、会社内の店舗営業に携わる人たちに説いていったんだけども、最初は、なかなか受け入れてもらえなかったんです。「我々の色はこうだ」って聞いてもらえない。ずっとやってきたっていう自負があるんですよね。ところがお客様側がそうじゃなくなってきているんだから、そのへんのギャップをなんとかしたいなということで、僕が一番最初に本格的に力を入れたのが、約4年前にオープンした「chou-choute」というお店なんです。

藤本:なるほど。チャレンジだったわけですね。

田村:うちはチェーン店だけど店舗ごとに違う個性を出して、スタッフのモチベーションが一番上がる写真を提供していこうじゃないかと。それが意外と早く、社長にも同調してもらえて。で、当時、本田知子と一緒に富士フイルムの集まりに出たりとか、彼女から教えてもらったアルバムの話とか、今の女性達が求めてるものとかを教えてもらったりしましたね。そうやって広がっていきました。やっぱり当時、あの手のお店はどちらかというと雑貨屋さんで、トイカメラを扱うお店っていうことで、単にブームに乗ってるだけみたいな見方をされたりもしましたね。でも実際、ユーザー層が変わっているから。昔は6〜7割が男性だったところから、今は7割以上が女性。それを念頭に仕事をしていかなきゃいけないんですよ。その部分の切り替わりが、自分や、従来から店舗を営業してる社員たちにとっていちばん大変だったことですね。

藤本:プリントを実際に店で焼いてる人っていうのは男性、女性どちらが多いですか?

田村:今、うちは、間違いなく女性なんです。

藤本:やっぱりそうですか。最近僕は、いい写真を焼く人って圧倒的に女性が多いなと思っていて。

田村:そうですね。うちはお店でプリントしてるのは女性で、メンテナンスするのは本社の男性で。

藤本:それ、いい役割分担ですね。世の中の流れと共に、写真好きの若者達だけじゃなく、店の中の人までどんどん女性になっていって。

田村:そう。ただ、経営者の立場になって振り返ってみると、女性といえば結婚、出産という大きなイベントがあるじゃないですか。相手の男性に付いて名古屋から出てしまうこともあるし、出産を期に仕事を辞める方も多い。産休後に戻ってきてくれるともちろん全然問題ないんですけど、相当スキルがついて、いざこれからという時に職を離れるということがあるんですね。そんな風に、まだまだ解決できてない問題はありますけどね。でも写真屋さんは女性の職場としてこれからきちんと作っていけば、これほどいい職場はないんじゃないかと思っているんですよ。

僕が最近感じていた、写真屋さん=女性の良き職場という考えを、田村さんはより深く実践的に店舗運営に取り入れようと行動されていました。そのことに深く感動した僕は、いよいよ本田知子さんがいる「ダイヤモンドカメラ ナゴヤドーム前店」に向かいました。そしてそこで聞く話は、奇しくも僕が今回このお店を取材したいと思った気持ちを代弁してくれているようでした。

藤本:本田さんはいつからこの会社に?

本田:6年になります。入社した時は千種の店に配属されて、そこで3年。そして、今の店で3年。もともとは大学生の時に全国チェーンの写真店でバイトをしていて。それがもう10年前くらいなのでデジカメとフイルムと、半々になった位のころでした。

藤本:かなりデジタルが普及してきてから入ったんですね。なんでこの世界に?

本田:高校生の頃は特に写真を撮ってなかったんですけど、大学生になってフイルムの一眼レフカメラを買って毎日写真を撮るようになって。それで、写真屋さんで働いたら自分の好きなように焼けるなと(笑)。

藤本:それで、そのまま写真を仕事にしたいと?

本田:就職活動で印刷会社なども受けたんですけど、やっぱり写真がいいなって。バイトをしていた店でも「社員になる?」って誘ってもらえたんですけど、そこは一般のお客さんがメインの店で、でも当時の私はハイアマチュアとか、こだわって写真を撮ってる人のプリントを焼くのに挑戦してみたいなっていう気持ちがあって。それで今の会社に決めたんです。

藤本:この6年、写真屋さん業界は激動でしたよね。

本田:そうですね。店に届いた『写真のことば』(フィルムカメラの魅力を伝えるフリーペーパー。発行=富士フイルム、編集=Re:S)の創刊号を見て、そこで告知されていた、「写真屋さんの未来を考える」トークショーを東京まで見に行ったこともありました。

藤本:2009年の1月だから、もう4年前になるのか。わざわざ名古屋から来てくれたんですね。

本田:これは聞いてみたい! と思って。あと、その少し後、富士フイルムが今やっているアルバムカフェの原型みたいなものだと思うんですけど、母親向けのマスキングテープを使ったアルバム講座に私も参加してみたんですね。そしたらそれがすごく楽しくて。で、その時に、今の母親の多くが子どものアルバムを作っていないっていう現状を知ったんです。それで、今の子ども達が20歳になった時に幼少の頃のアルバムがなかったとしたら、それはかわいそうだって思って、当時働いていた千種のお店でアルバム講師をやってみたりもしました。

藤本:本田さんがそうやって動き出したのって、田村部長がchou-chouteを始めるよりも前ですよね?

本田:そういうことになりますね。で、その後田村からchou-chouteの企画を聞いたときにおもしろいな、やってみたいなって思いました。でも結局は少し関わっただけで、そこでは働けなかったんです。当時はそれがすごくショックでした。

藤本:なるほど。フィルムや雑貨に特化したchou-chouteと、こういうショッピングモールの中のお店はまったく毛色が違いますもんね。

本田:でも、その時そっちへ行けなかったことに意味があったというか、私がアルバム講師をやったときのお客さんとか、本当に写真をプリントしてほしいって伝えたいと思っているのは、むしろショッピングモールである、こっちのお店に来てくれるお客さんなんですよ。

藤本:そうですよね。個人経営のお店で一生懸命頑張ってはるところって全国にいっぱいあって、そこには写真好きのコアなファンがいる。でも、そういう人たちはこっちから伝えなくても、写真をプリントしてアルバムを作る大切さを、すでに分かってる。

本田:伝えなくちゃいけないのは、写真にそこまで興味や思い入れがない、大多数の一般の人たちなんです。

藤本:実際、店に来るお客さんはどういう人が多いですか?

本田:本当に幅広いですね。平日はお母さんで土日はお父さん。高校生もすごく多いんですよ。おじいちゃんおばあちゃんも来るかな。

藤本:高校生もいるんですね。

本田:高校生は、けっこうプリントしに来てくれます。ほとんどがスマホで、あとデジカメも多くて。うち、正直なところ価格は安くないんですよ。なのでやっぱり安いのがいい人は他のところへ行きます。でも、うちはもちろん銀塩でちゃんとプリントしますから。店には銀塩じゃない自動の機械も置いてて「どう違うんですか?」って聞かれるので、「銀塩のほうが色もきれいだし、長持ちしますよ」って伝えるんです。でも私、去年着物の着付け教室行ってたときに、一緒に習ってたおばちゃん達が、「写真撮ったからあげるね」ってもらったものを見てみたら、A4サイズの普通の紙に画像がいっぱい印刷されたもので、うーん、これがおばちゃん達にとっての写真なのかと思って(笑)。

藤本:結構、みんなそれで満足してるんですよね。

本田:していますね。うちの親のことを考えてもそう。でも、だからこそやりがいがあるというか。この店だと、そういう人たちに綺麗なプリントってこういうものなんだって、広く伝えられるチャンスがあるんです。ナゴヤドームも近いので、野球を見に来た人とか、コンサートに来た人とかが偶然通って店に立ち寄ってくれるチャンスもあります。

藤本:きっと写真屋さんの今後の本質的な課題は、そういう人たちが写真をプリントするようになるにはどうすればいいだろうっていうこと。その意味で、本田さんのいるこの店が成功するかどうかは、本当に大事なことだと思って、僕は今回この店に来たんです。けど大丈夫ですね。

本田:リアルに届いて、変わっていく可能性があるっていうことですもんね。昔のような価格の安さとかとは違う、純粋な写真の楽しさだったり、何かのメリットみたいなものを伝えないといけないんです。楽しむっていうことで言うと、若い子、特に高校生なんかはちゃんと今もアルバムを作ってプレゼントして楽しんでるんですよね。

藤本:そういう楽しさ、その価値みたいなものを大人になって忘れてしまったお母さん、お父さんたちに提案できたらいいですよね。

本田:そのためには他のスタッフ達の意識も変えないといけないのかもしれない。同じ思いを共有しないと……。正直なところ店に立っていると本当にいろんなお客さんが来られるから、時にくじけそうになることもあって、辞めてしまおうかと考えたこともあるんです。でもやっぱり写真が好きで、自分がこの店にいる意味を感じているから、これからも頑張っていこうと思います。


(左上)かれこれ7年近く使っているというNATURA CLASSICA。日常を切り取ったり、そしてもちろん旅行に行くときもいつも一緒。
(右上)職場近くのナゴヤドーム横にある公園。天気のいい日の休憩時間はここで過ごすという。
(左下)中村区にある「トリカフェ」は本田さんがよくひとりでランチを楽しむそう。季節野菜のスパゲッティと自家製フォカッチャが本田さんのお気に入り。
(右下)本田さんのおばあちゃん。その最高の笑顔に、2人のお互いを愛しく想う気持ちが写っている。

写真=本田知子


愛知県名古屋市東区矢田南4-102-3 イオンモールナゴヤドーム前1F
TEL:052-723-4646
http://www.toaphoto.co.jp/~domemae/

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