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根本きこ

フードコーディネーター

1974年生まれ。フードコーディネーター。アジアを旅したこときっかけに、食の世界へ。雑誌や書籍で活躍。神奈川県逗子でカフェ「coya」、雑貨屋「oku」を営む。一男一女の母。

10月9・11・14・15日は、横須賀、葉山、逗子、鎌倉で映画『ミツバチの羽音と地球の回転』の連続上映会を開催。原発計画が進められている山口県祝島、脱原発への道を歩むスウェーデンの暮らしをとおして、自分たちが使っているエネルギーのことを考えるきっかけになればとの思いがこめられる。当日はトークやライブなどのゲストあり。
ミツバチの羽音と地球の回転
coya

子ども連れの旅は本当に楽しかった。

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─ これまたぐっすり眠っていますね。大切な宝物のように守られていて、愛情が静かに伝わってくる写真ですね

ね、かわいいでしょー。これは上の子が生まれて初の海外旅行の時の写真なんです。10ヶ月のとき、ベトナムを10日間、親子三人で旅をしたときのもの。これまでは1泊10ドルくらいの安ホテルに泊まっていたんですけど、子どもがいることによって10倍くらい高いホテルに泊まったんですよ。ちょっと高級感が漂っているでしょ? これはハノイのホテルです。

─ どうしてこの写真を選んだのでしょう? きこさんは食べ物の写真がでてくると勝手に思っていました

旅行ってなにが楽しいかって食べること。だから一食一食が本当に楽しくて、食べることってこんなに楽しかったんだって気づいたのが旅でした。私たち夫婦にとって、旅が最大の趣味だったんですけど、子どもの誕生によって、そのスタイルがガラリと変わった。この写真にそのときの記憶がぎっしりつまっているんです。
今までは、おとなだけだから、行きたいところに自分たちのペースで行く。でも、このときからは、子どもが寝たらホテルに帰ってゆっくり寝かせたあとに、また町へ繰り出すという子ども中心の旅のサイクルになりました。もちろん、あきらめないといけない部分も出てくるけれど、その分、楽しさも増しました。子どもは主に背負って行動していたんですけど、市場のなかを歩いていると気づくと、何かを手にしているんです。誰かからなにかをもらっているんでしょうね。ベトナム人からバナナの上手な食べさせかたを教わったりもしました。子ども連れの旅は本当に楽しいなって思いました。

─ 旅先ではよく写真を撮るんですか?

写真を撮るのは主人の係なんです。主人はとにかくたくさん撮るんで、帰ってきて見直すと本当に楽しいなあと思います。この子ももう4歳なんですけど、写真を選ぶ作業をしているとき一緒に見て「こんなことあったよねー、おもしろかったねー」と思い出話をしました。主人はフィルムカメラを使っているので、撮ったものすべてを現像します。だから、家には段ボールにいっぱい撮った写真が……。時間があるときに、子どもたちと一緒にアルバムに入れて整理する作業もおもしろいですよね。

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静かで情感あふれる絵のような写真が好き。

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もののかたち

─ きこさんが書く文章を読んでいると、子どもの頃の記憶とか、旅の思い出といったようなものが、情景や匂いと一緒に立ちのぼってくるような気がします。
それはとても写真的で、懐かしい一枚を見たときに浮かぶ一瞬の思いに似ているような。きこさん自身は写真を撮らない?

実は、私自身は仕事でポラロイドを撮るくらい。一ヶ月前にデジカメを買ったのだけど、結局使っていないんです。私はもともとも旅には色鉛筆とスケッチブックを持って行って、見たものを絵にしちゃう。だから、写真もどちらかというと絵的なものが好き。スナップというよりも、それだけでポストカードになるような。静かで情感あふれるような写真が好きです。
だから、今回も、静かで、暖かさがあるこの写真を選びました。この部分がシンメトリーになっているところも気に入っています。

─ 写真家大沼ショージさんと作った単行本『もののかたち+たべるかたち』(ソニーマガジンズ発行)も、絵のように深みがあって美しい写真でした。
あれを読んでいていても、写真ときこさんの思いが深く結びついているようで、記憶のなかのさまざまな匂いが立ちのぼってきました。あれは写真を見ながら文章を書いたのですか?

いいえ。あのときは、どんな写真があがってくるかは、雑誌ができるまではわからなかった。ただ、撮っているときは、写真家のショージと私で実験室というか研究室のように、「うーん、光はこっちのほうがいい」とか「こっちはどうだろう」とか、被写体に対するお互いの気持ちを、言葉ではなく感覚ですり合わせていきました。たとえば、これは水が冷たそうに写っているとかっこいいから、向こう側に緑を写りこませるために、こっちから撮ろうといった具合に。ああでもない、こうでもない言いながら撮っていたので、そのときから頭のなかにストーリーはできていたんです。

─ 撮りながら思いや愛情をかためていく。その瞬間だけをとらえるのではなく、そこまでに至るストーリーが大切なんですね

そうですね。だから、デジカメはあまり信頼できないんです。ここを明るくとか、もっとああしてとか、あとからいろいろ修正できちゃうでしょ? だから、そこにあった偶然や、その瞬間を確実にとらえた空気感のようなものが感じられるフィルムのほうが私は好きなんですね。

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記憶にぐっと入り込むような瞬間瞬間を大切にする。

─ どんなときに写真を撮りたい、
もしくは撮ってほしいと思いますか?

そうですね。子どもが二人寝ていて、まったく同じポーズをしていると撮りたくなりますね。あとは、送ってもらったブンタンの実が子どもの顔と同じ大きさだったから、驚いて並べて撮ったり(笑)。そう考えると、やっぱり絵になるときなんですかね。そう「記念」に撮る写真じゃなくて、「記憶」に残ることのほうが大切なんです。
でも、そのとき心に響いてばんと入ってくることをそのまま撮るというのも、なんとなく違う。うちの店でお客様にオーダーを聞くとき、なるべく紙に書かないでっていうんです。書くと、書くことに集中しちゃうから。
その時々で、ぐっと入り込む瞬間というのがあって、それがすごく大事だと思うんです。だから、それをオーダーをメモしたり、写真に撮ったりすると、なんだか薄まっちゃう気がして。だから「絵」なのかもしれませんね。記念写真というのは私のなかであまり重要じゃないから、心に残す写真が撮りたいです。

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2010/09/17 取材・文 岡田カーヤ/構成 MONKEYWORKS
写真 藤堂正寛/Webデザイン 高木二郎

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