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セキユリヲ

デザイナー

「古きよきを、あたらしく」を大切にもの作りに関わるデザイナー。雑誌『みづゑ』のアートディレクターをはじめ、グラフィックデザインを中心に活躍し、2001年にサルビア設立。独自のパターンワークを用いた衣類や生活雑貨制作などを手掛け、同名の冊子『季刊サルビア』を発行。手仕事を通じたものづくりに関心を寄せ、ジャンルを超えたデザイン活動を続けている。

2011年3月より「サルビア 蔵前アトリエ」では、毎月第一土曜日を「月いちショップ」としてオープン。様々なイベントを行う予定。 主な著書に『セキユリヲのデザイン』(ピエブックス)、『サルビア手づくり通信 セキユリヲ職人さんに会う聞く習う』(アスペクト)など。
雑誌『天然生活』では「北欧手づくり春夏秋冬」をテーマに連載中。

サルビア HP http://www.salvia.jp
スウェーデンでの生活紀は こちら

ずっと学んでいるスウェーデンの人々との暮らし。

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─ 1年間スウェーデンに留学されたんですね?

テキスタイルのことをもう少し深く知りたいという思いがあって、2009年の夏から1年間、スウェーデンのエーランド島にある小さな手工芸の学校「カペラゴーデン」に行きました。 「深く」というのは、たとえば糸を例にすると、糸の構造やその糸がどこから来るのかとか。テキスタイルの理解を全般的に深めたいと思ったんです。勉強は日本でもできますが、自分の人生の中では1度くらいは日本以外の国に住んでみたいなと思っていたんです。

私も連載をしていた『リンカラン』(ソニー・マガジンズ)という雑誌が、カペラゴーデンの取材をしていました。実際に学校に行った人から「セキさんが行けば身になると思うよ」といわれていたんです。たしかに雑誌を見て、「なるほどいいなあ」と思いました。カペラゴーデンの感じは日本の学校にもないし……。それに、プライベートや仕事で北欧に行くことが多くて、どうも私には北欧には馴染みが良かったんです。それで、この学校にいくことにしました。場所も田舎にあって、人間の数より牛や羊が多い(笑)。

カペラゴーデンは、スウェーデン家具の父ともいわれるカール・マルムステンが創始した小さな工房のような学び舎で、「彼の哲学を体感しましょう」という場所です。テキスタイル、木工、陶芸、ガーデニングコースがあります。各コース15人くらいが定員で、どれも衣食住にまつわるコースです。ガーデニングコースの人たちが作った野菜をキッチンで料理し、その料理の器は陶芸科の作品、テーブルも椅子も木工科。もちろんそこでテキスタイルも使われています。衣食住を自分たちで作るという学びができる場所。日本の学校にはない仕組みだなと思いましたね。暮らしながら学ぶ。暮らし方を学ぶ。……そんな学校でした。

─ たくさんの写真を撮られています。1年間の記録なんですね。

ええ。せっかくの機会なので記録しておきたいなと。きっと貴重な1年になると思っていたから、流してしまうのはもったいないなと思って。学んでいる人たちも、国籍や世代も幅広く、おもしろい人が多かったですね。50代の生徒もたくさんいる。それはスウェーデンでは普通のことなんです。何歳でも学ぶことはできるし、もちろん職場にだって戻れます。彼らはずっと勉強をしているんです。

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世の中に残すべき芸術を、いつも私は見ているなと思っています。

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─ たくさんある中で、一枚を選ぶとしたら?

この民族衣装を着て踊っている人たちの写真ですね。私は北欧の民族衣装に興味があって、なるべく自分の制作物もスウェーデンの伝統的なものを作るようにしたり、資料などを集めたりしました。夏至祭(Midsommar)という、クリスマスの次くらいに大切にされている行事では、たくさんの人たちが民族衣装を着て街に出て、音楽を演奏しながら練り歩いたり、フォークダンスをしたりするんです。とても印象に残ったお祭りでした。

スウェーデンの冬の日は短く、夏は長くなります。太陽というものが彼らにはとてもありがたい存在です。夏至祭は、日が長くなってきたことへの感謝の気持ちを祝う祭りなんです。たぶん、私たちのお正月のような感覚に近いと思います。夏になるとみんな浮き足だって、学校をさぼってピクニックをしたりする。そんなことすると、日本では怒られそうですが、スウェーデンでは推奨される(笑)。せっかく太陽があるんだからさって。

─ みなさん民族衣装を着て楽しそうですね。観光で訪れるのと、実際に住んで見聞きするのではお祭りも違って見えそうですね。

そうですね。大雪の暗い冬を過ごしていますから太陽の「ありがとう」という気持ちを共感できる。野菜も採れないから食卓も貧しくなってくるし、そんな暮らしの後に夏至祭がある。だけど、冬場は部屋にいる時間が長いので、もの作りも盛んなんでしょうね。

─ 先ほど、「流してしまうのはもったいない」とおっしゃいました。写真で記録を残すということについてはどうお考えですか?

私は本当に「貴重な体験をさせてもらって生きている」という気持ちを持っているんですね。それが流れてしまうのが嫌なんです。だから記録しておきたいんですね。たとえば尾道で頒布のバッグひとつを作るのでも、生地を草木染めする職人さん、帆布を作る職人さん、縫製する職人さんと、多くの人が関わっている。いいものを作ろうと思って関わってくれている人を記録しておきたいので『季刊サルビア』という小冊子を作って紹介しています。
世の中に残すべき芸術を、いつも私は見ているなと思っています。それを私だけが見ているのはもったいない。できるだけ興味のある人に伝えていきたいという気持ちはありますね。

─ 手に職のある人は、言葉や国籍が違っても仲良くなるのは早いんじゃないですか?

そう。わかり合えるのがすごく早いと思いますね。カペラゴーデンにいた人たちは手工芸の好きな方たちばかりなので。なんかねえ、手工芸が好きな人が集まると、……平和なんですよ。手工芸は世界平和のために役立つんじゃないかな(笑)。だって、自分で作ったものを大切にする人たちが、戦争なんてするはずもないしね。

2010/02/24 取材・文 井上英樹/構成 MONKEYWORKS
写真 藤堂正寛/Webデザイン 高木二郎

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