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塗布の匠が語る
“技と想い”

材料や工程を分析して、
問題なく塗れる仕組みを整える

宮宅:私の手がける工程は、幅広い機能のPETフィルムをつくるための塗布の処方研究です。PETフィルムにさまざまな機能を付与するための表面改質を、塗布を用いて実現しています。フィルム商品の研究所の開発部門を経て、水系塗布技術を身につけたのち、工場での処方技術を担当するようになりました。

熊沢:私は、宮宅さんたちの部門がつくったPETフィルムに対して、銀を使った機能層を塗布するプロセスの担当。銀を塗布されたフィルムは、印刷用、プリント基板用、マイクロフィルムなど、さまざまな商品へと展開されていきます。

宮宅:「ものづくり共創FACTORY」としての案件であれば、お客さまがつくった液を、私たちが塗布していく流れが基本になると思います。実作業を始める前に、問題なく塗れる仕組みを考えるのは、私たちの仕事です。たとえば、どうしても「ハジキ(塗膜の一部に下地の基材などが露出する現象)」が起きてしまうときは、ある種類の界面活性剤を添加します。そうすると、ハジキの原因である表面張力が制御できるようになるため、ムラなく塗れる。お客さまの最終目的を踏まえて液物性を調整し、最適な方法で課題を解決します。

熊沢:液だけじゃなく、工程も分析しますね。どこに問題があるのか、どうすれば対策できるのか、いまある設備でつくれるベストな塗布機や条件はなにか……多角的に検討しながら動いていくんです。もちろん、なにかしらの添加剤を配合する場合は、もともとの品質や機能が変わったりしないように、細心の注意を払っています。

長年の写真フィルム製造が培った、
緻密で責任感のある仕事

宮宅:富士フイルムの礎である“写真フィルム”という商品は、お客さまが購入してカメラにセットし、撮影を終えて現像に出すまで、機能が正常なのかわからないものです。それでも最後まできっちり品質を保証しなければならないため、クオリティの担保については、他社に比べて過剰なほど気を遣っています。そのバックグラウンドは、いまも我々の技術や姿勢の端々に現れているんです。

熊沢:そうですね。たとえば“自工程保証”は、自分たちの工程で施した作業を、きっちり保証する考え方のこと。原材料が商品となってお客さまのところへ届くまでには、さまざまな工程を通過しなければなりません。それぞれの現場がしっかりと責任を持ち、役割をまっとうしようとする姿勢は、とても富士フイルムらしいと思います。

宮宅:なにか欠陥が生じたときには“メカニズム追求”も忘れません。いつ、なにがどんなふうに起こったのかを分析して、二度目のトラブルを防ぎます。社内に優秀な解析センターがあるため、対応はとても正確でスピーディーです。

熊沢:写真フィルムは10種類以上の複数層で設計されているため、どこの層に問題があったのかを見間違うだけで、解決までがぐっと遠回りになってしまうんですよね。そういう細かい部分も含めて緻密に解析できるのは、私たちとしても誇れる技術です。それから、多種多様な塗布機を持っているのも強みですね。塗りたい液や基材は、毎回さまざま。量産化を実現するには、まずどんなプロセスで塗布すればいいかを見極めなければいけません。そんなとき、塗布機の選択肢が豊かだからこそ、最適なものが選べる。小ロットで試し塗りをする設備や、これら設備での条件をコンピューターによりシミュレートする技術もそろっています。

宮宅:お客さまの液を“当たり前に塗れる”状態にしていくのが、まず大事なんですよね。その序盤で、富士フイルムの設備や工程を熟知している我々が、有効なアレンジを担えると思っています。

熊沢:いただいたご相談の要件をふまえて、技術コンサルのような働きをすることも少なくありません。たとえば以前「必要な性能を出すために、塗布直後は無風乾燥をしてほしい」というご依頼を受けたことがありました。でも、通常の工程では風によって乾燥しているため、なかなか無風で乾かす体制がつくれません。そこで、完全ではないけれどなるべく風を抑える少量実験装置をつくって、無風じゃなくても必要な性能が出せるかどうかを実験。じつはお客さまのほうでも、絶対に無風じゃなければだめなのかは確認されていなかったんです。小規模ラインで試したところ微風なら問題ないとわかったため、1カ月後には量産ラインに乗せることができました。言われたことをただやるだけでなく、さまざまな面で最適なプランを見つけ出すことが、私たちの存在意義だと思っています。

困難が多いプロジェクトほど、
僕らの腕の見せどころがある

宮宅:映画上映用のフィルムの表面改質の塗布を検討したときは、かなり苦戦しました。ご依頼は「映画の元データをフィルムに焼く時と映画館で上映する時で、帯電性が変わるフィルムをつくってほしい」という内容。映画を焼くタイミングでは、電気をよく通すほうが、トラブルが起きにくい。でも、あとから上映するときには、少し電気を通りにくくする方が、ある種の静電気による不具合を防げるんです。1つのフィルムで帯電性を変化させるなんて、通常では考えられないオーダーでした。でも試行錯誤したすえ、2種類の帯電防止剤を添加することで、なんとかご要望をクリアできたんです。ほかの条件をいろいろ変更すると、後工程にも影響が出てしまう。だから、僕らが担当している現場で、液の中身を変えるだけの対応にできたのもよかったなと思いますね。映画がデジタルデータになったいまはもう使われていないフィルムですが、とても印象深い仕事です。

熊沢:僕がやりがいを感じたのは、近年、量産化に成功した機能性フィルムの案件ですね。その商品化における塗布工程の大きな課題は、塗布液の安定性とフィルム性能を両立させるために作られた温度による特性が異なる2種のポリマーが入った塗布液を、連続して塗布できるよう量産適性を付与することでした。塗布液の液温やコーターの保温温度を、片方のポリマーの適するように合わせると、もう片方のポリマーが増粘してノロ状の異物を作り出したり、逆のポリマーに適した温度にすると、もう片方のポリマーが塊を作り出したりで、いずれも連続生産時に面状故障を発生させる懸念がありました。この課題を両立させるブレイクスルーが必要でした。とても困難な課題でした(笑)。だけど、商品開発上どうしてもクリアしなければならなかったため、研究所とは性能を維持したまま大量生産を両立するための処方の改良や塗布の条件出しを、何度も協議して、実験して導き出しました。また、製造部門とは研究所と作り込んだ処方や塗布の条件では対策が不十分だったところもあったため、これを埋めてさらなる大量生産でも安定に連続製造する方法についてディスカッションを重ねて、最終的には製造部のオペレーションの工夫やノウハウを加えて合わせることで、無事に一定条件製造の量産化を達成できました。いまでは、富士フイルムの主力商品のひとつになっているんです。成功した時は、本当に感動しました。

宮宅:難易度は高いけれど、自分の知識や現場との連携で、いい解決方法を導き出せたときはすごく達成感がありますよね。そして、高い製造力や幅広い知見があることは、本当に富士フイルムの武器だなと思えます。

共創によって、いままでとは違うチャレンジを

熊澤:これまでは、富士フイルムの技術や商品開発のなかで、真摯にものづくりをしてきました。だからこそ、いままでとは違う文化や新しい技術に出会えそうな“共創”には、とても興味を抱いています。お客さまと知恵を出し合いながら、世の中に役立つ新しいものを生み出していきたい。そして、そういう開発の過程で、自分自身も技術を磨いていけたらと思っています。

宮宅:よくわかります。そんなものづくりでは、お客さまとのコミュニケーションがなにより大切。キャッチボールをしながら、よりよいものをつくっていきたいですね。自分の持っている知識を役立てられるのもうれしいです。その先で、たとえば自分の子どもに対して「お父さんはこんな仕事をしているんだよ」って自慢できるようなものがつくれたら、すごく誇らしい。共創ならいままで以上に世の中との接点が増えるだろうから、きっと面白いチャレンジができるはず。自分の技術が入った商品を、どんどん世の中に出していきたいと思います。

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