本コンテンツは、お客さまがご利用のOSまたはブラウザーへ対応しておりません。
最新のOS、ブラウザーにアップデートしてください。

映画で感じる! ものづくり

© 2016 Universal Studios. All Rights Reserved.
vol.3 スティーブ・ジョブズ
  • 監督・制作:ダニー・ボイル
  • 製作年:2015年
  • 製作国:アメリカ
  • 発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
  • 価格:DVD版(1,429円+税)、Blu-ray版(1,886円+税)
※価格等は公開時点での情報です。

描かれる“人間”スティーブ・ジョブズと、
“芸術家”スティーブ・ジョブズ

STORY

1984年、スティーブ・ジョブズは新製品のパソコンMacintoshの発表会に立とうとしていた。ところが本番前、「ハロー」と言うはずのMacintoshが動作しない。部下のアンディーに「直せ!」と言い放つジョブズ。そして音声デモがなければ発表会は中止にするとまで言い出す。さらに発表会でAppleⅡチームへの献辞を述べろと依頼してきた共同創業者のウォズニアックの頼みを拒否。そして本番直前、舞台裏でペプシコーラからやってきたCEOのスカリーとある会話を交わす。

スティーブ・ジョブズの3つの製品発表会とその舞台裏

スティーブ・ジョブズ。世界に最もその名を知られている男。だがその素顔はあまり知られていない。大学を中退して技師として働いていたジョブズは、親友のウォズニアックと1976年に最初のAppleⅠを開発、その後彼とアップル・コンピュータを創業。そしてウォズニアックがAppleⅠを再設計したAppleⅡは市場で大ヒット、ジョブズは1980年に2億ドルもの資産を手にした。

その後のジョブズの人生は、大きく3つの時期に分けられるだろう。1984年に、最初のMacintoshを発表したが販売不振となり、CEOのスカリーとの軋轢が生まれ、アップルから追放されるまで。次に、アップルを出たジョブズがNeXT Computer社を設立し、NeXTcubeを開発、アップルがNeXT Computerを買収し、ジョブズがアップルに復帰するまで。そして、最後にアップル復帰後のジョブズである。この映画は、彼のターニングポイントとなった3つの新製品の発表会(1984年のMacintosh、1988年のNeXTcube、1998年のiMac)、それぞれの本番直前40分前の「スティーブ・ジョブズ」を描く。ジョブズ自身が執筆を依頼したウォルター・アイザクソンによる伝記『スティーブ・ジョブズ』の映画化である。

左からウォズニアック(セス・ローゲン)とジョブズ(マイケル・ファスベンダー)。
© 2016 Universal Studios. All Rights Reserved.

世紀の偉人を描くアーロン・ソーキンの見事な脚本

脚本のアーロン・ソーキンは、Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグを描いた2010年の映画「ソーシャル・ネットワーク」の脚本も書いている。今回は、スティーブ・ジョブズという様々なものを抱える一人の異才を描くにあたり、全体を40分ごとに3分割してそのプレゼンの直前を描くという構成が画期的だ。この40分でジョブズに関わる人間(マーケティング担当のジョアンナ、元CEOのスカリー、共同創業者のウォズニアック、娘のリサ)との会話劇を通してジョブズを描く。

スティーブ・ジョブズの生み出したもの

我々の多くは、アップルに復帰してからのジョブズしか知らないのではないだろうか。現在世界中で使われているiMac、iPod、iPhone、iPadはジョブズがアップルに復帰してからこの世に送り出した革新的な製品だった。今日のイノベーションの代名詞となっているこれらの製品がなければ我々の生活は全く違ったものになったに違いない。そしてジョブズがいなければこのような製品は生まれなかった。だが、あらためて見てみるとジョブズとアップルが独自に発明したものは少ない。Macintoshで世界に広まったマウスだが、マウス自体はゼロックスですでに開発されていたし、iPhoneのようなスマートフォン端末はマイクロソフトが開発していた。またiPodに代表されるデジタル音楽プレーヤーはアップル以前に開発・販売されていた。ところがこれらのテクノロジーは、ジョブズの発想力によって革新的なイノベーションとなり、人々のライフスタイルを変えた。ジョブズが行ったのは発明(インベンション)でなく革新(イノベーション)だった。

© 2016 Universal Studios. All Rights Reserved.

“人間”そして“芸術家”スティーブ・ジョブズ

ジョブズがこの世を去ってからの彼の評価は、いかにも完璧なイノベータであり、経営者であったかのような高評価のみが目立つ。偉大な業績を残した人間はとかく称賛され、神格化されがちだ。だが、そんな天才性の反面、彼が人格的な問題を抱えたとんでもない男であったのも事実なのだ。傲慢であり、他人をクズ呼ばわりし、パワハラ上司であったのも、またスティーブ・ジョブズという男だった。この映画の中で描かれるのは、そんな“人間”スティーブ・ジョブズの姿である。
劇中、ウォズニアックがジョブズにこう問う。

「君はプログラムも書けない。デザイナーでもない。釘も打てない。基盤は僕が。他社からGUIを盗み、ラスキンのプロジェクトを横取り、Macは他人の業績、なのになぜジョブズは天才だと言われる? 君は何をした?」
この問いは観客の疑問を代弁している。スティーブ・ジョブズはエンジニアではない。またデザイナーでもない。スティーブ・ジョブズは何をした男だったのだろうか。
この映画で描かれる彼のもう一つの姿は、自らの才能を誇示し自分の感性を作品として作り出す“芸術家”としてのスティーブ・ジョブズである。
だからこそ美しさにこだわり、妥協しなかった。自分のこだわりに対して徹底的な完璧主義者でありながら、その姿勢はユーザー目線で、製品を使う人たちの未来のライフスタイルというビジョンを忘れずに、余計なものを省き洗練した製品を作り出す。

© 2016 Universal Studios. All Rights Reserved.

音楽家は楽器を演奏する。
僕はオーケストラを奏でる。

Byスティーブ・ジョブズ(マイケル・ファスベンダー)

イノベーションを、異才の登場にまかせない

「ものづくり」という言葉は、日本の製造業、生産技術の文化を表す言葉として定着している。それはすり合わせの文化であり、設計部門間の細部の調整力により支えられている。これらは日本のものづくりの高い能力であることは間違いない。だが、この半世紀の日本の製造業の成長とともに、それは同時にイノベーションの妨げになっている。すり合わせによる部門間の利害調整や妥協により、製品の大局的なビジョンが犠牲になれば、イノベーションは生まれない。
だが、思い出してほしいのは、日本でもかつて様々なイノベーションが生まれていたということだ。戦前はゼロ戦を作ったし、ウォークマンは世界の人々のライフスタイルを変えたし、カラオケは世界で親しまれ文化を作ったし、新幹線は世界に誇る超高速列車のシステムだ。
日本の製造業の新たなるイノベーションを、異才であるジョブズのような人間の登場に期待するのは無責任だろう。ジョブズはこの映画に描かれるように様々な面を持った男だ。だが、人々のライフスタイル、世界をよりよい世界、自由な世界に変えたい、という愚直なまでの純粋な想いが彼には絶えずあった。 この映画を見て、あらためてジョブズへの興味が増したと同時に、ジョブズを超える日本のイノベーションの再興を期待したいと思う。

© 2016 Universal Studios. All Rights Reserved.

※本ページに掲載の写真はNBCユニバーサル・エンターテイメントへの許諾を得た上で使用しています。

PROFILE

星ワタル
1984年10月東京生まれ。アメリカ、テキサス大学アーリントン校、航空宇宙工学科卒業。カナダのトロント大学航空宇宙研究所で修士号を取得。卒業後電機メーカーに入社し、現在まで宇宙機、人工衛星の設計開発に携わっている。専門は姿勢軌道制御、制御工学。学会論文も複数発表。趣味は映画鑑賞。また、東京都調布市を中心に活躍する劇団「劇団真怪魚」に所属し、舞台、演劇、映画を学んでいる。

記事公開:2017年3月