ー まずは「家系の写真集・千代」のことを教えてください。オリジナルのロゴもあるんですね。
はい。今はいっぱいお年寄りが生きてますでしょ。だからこれは(家系の写真集・千代A)、長寿の親に贈るもの。最初のページに家系図を入れて、おじいちゃんの写真、おばあちゃんの写真を貼って、あとは「家族」という単位ごとに貼っていくの。一人ずつと違うんですよ、一家族ずつ。うちのおじいちゃんは7人兄弟でしたが、それぞれに子どもがいて、それがまた結婚して孫がいるでしょ。だから、まだ新婚で夫婦2人のところもあるし、子どもはもう大きいけどまだ独身やから、そのお父さんお母さんと写ってる写真もある。
ー 血のつながったいろんな家族が1冊のアルバムにまとまってるんですね。
そうなのよ。だけど、これは今、子育て中の若いお母さん方だとちょっと抵抗あるかなと考えて、もうひとつ、2、3歳の子どもに贈るもの(家系の写真集・千代B)も考えました。これは、さっきのアルバムを反対からいくんです。子どもの写真があって、親、ジジババ、あともう一つ上のジジババ。
だから、ひいおじいちゃんひいおばあちゃんまで貼るの。そしたら1世紀になるんです。子どももね、2、3歳くらいになったら自分の写真、父母、ジジババのこともだいたいわかる。ところが、ひいおじいちゃんの写真になると「えっ、これ誰?」って言うのよ。「おじいちゃんにもお父さんおったん?」って。
ー そうですよね。一度も会ったことない場合も多いでしょうし。
そうでしょ。あと、これのええところはね、写真がひ孫まで残るわけですよ。亡くなったおじいちゃんおばあちゃんの肖像写真でも、ちょっと切ってでもいいから、アルバムに入れてあげる。みんなね、写真を切ったらもったいないって言うけれど、タンスの隅っこでシワシワになってるよりも、切ってでもいいからみんなの目に触れるほうが価値が上がるってことも言いたいねん。私も今おばあちゃんやから、この「家系の写真集」を作ることで自分の孫全部に写真を残せるでしょ(笑)。
ー お孫さんがそのままアルバムを大事に持ち続けたら、写真が100年150年と伝わっていくことになりますね。
もう一つね、私は60歳で高等学校に行ったでしょ。夜間高校に来るような子は家庭の複雑な子が多いの。だから、「三つ子の魂百まで」というように、子どもが3歳くらいの小さなうちに、ひいおじいちゃんという存在がいるってこと、ずっと命はつながってるってことをインプットできたら、もっと自分の命も大切にできるかなあって。どこか頭の片隅でも、こんなん(ひいおじいちゃんの写真)見たぞって記憶があるだけでもいい。その子はひとりじゃないって伝えたいんです。
ー 女子高生チヨ時代の話もすごく気になるんですが(笑)、今回は写真のことを伺いますね。「家系の写真集・千代」の他にも写真整理の方法を編み出されたとか。
はい。家系の写真集を作るためにお母さん方が親のところに行くでしょ。そしたら、押入れから昔の写真を出してきて、親の方がすごくノリノリなんですって。私も同じ世代やからその気持ちはようわかるんです。古い写真を出してきて自分で遊ぶっていう気持ち。だけど、私も70歳で、アルバムは7、8冊はあるんです。これを置いたまま死んだら、息子や娘は邪魔なだけやろなあって。
ー 遺された写真の整理はほんとうに難しい問題かもしれません。それを自分から先に整理しておこうと?
そうそう。自分の小さな時とか、小学校や中学校の集合写真とか、選び方はどんなんでもいいけど、それを1冊にまとめておく。私だったら、美智子妃殿下とおんなじシャツ着てる写真だとかね(笑)。
そういう思い出の写真に、卒業文集の表紙を切って貼りつけたりして。そしたら、この1冊だけを残して、後は全部子どもなり夫なりが捨てられるでしょ。自分で捨てる勇気がないねん。だから、捨てやすくしておきたい。
ー 実際、なかなか写真って捨てられません。
今は「断捨離」っていうことばがあるでしょ。でも、私はあの漢字が嫌いやねん。ばっと捨てる、キツイ感じがするでしょ。私はひとつひとつ丁寧に捨てていきたい。1年とか長い時間かかってもええから。
ー 確かに捨てるというのは今の時代のキーワードになってます。
「断捨離」と一緒のことかもしれんけど、違うねん。こんな漢字、イヤやねん。自分が楽しみながら、捨てるものと残しておくものとを整理していきたい。あと、遺されたもんが捨てやすくすることも必要やと思います。私らの世代は、子どもと一緒に住んでないから、そういう意味でも子どもに迷惑かけんようにせんとあかんなって。
ー もうひとつ別のアルバムもありますね。
うちの主人はプロやから、子どもが生まれてからアホほど写真を撮ってたんですよ。それがパッキングケースにつっこんだまま、たくさんあって、これをどう整理しようかと。それで考えたのがこれなんです。まず先に、いろはにほへと…とアルバムのページに文字を書いていく。で、たくさんある写真を見ながら、「お墓参り」やと思ったら、「を」のところにぺたぺたと写真を貼る。ぱっと思いついたら、ことばは何でもいいんですよ。
ー 思いついた言葉にあわせて、撮った年代も写ってる人も場所も関係なく一緒に貼っていくんですね。「東京見物」「なんかふしぎ」「せいくらべ」「わた菓子ほしい」…ことばも自由気ままですね!
アルバムってなんとなく年代の順番に貼らなあかんと思ってるでしょ。でも別に順番じゃなくてもいいやん。それにこんな大量の写真を順番に並べようと思ったら、それだけで何年もかかるよ。
ー まさに「チヨ流いろは式アルバム」ですね。これは整理する作業も楽しくなるはず。
これを自分ひとりじゃなくて、2、3人で集まってやったらすごく面白いことになると思うんよ。人の写真を見てても、ことばがいろいろ思い浮かぶでしょ。「この背広、思い出あるねんなぁ」「ほな、“を”で“思い出の背広”にしとき」とか。
ー アルバムの整理をみんなで集まってしようと。
家でひとりでできるもんじゃないと思うわ。ひとりだと入りこんでしまうでしょ。この「いろはアルバム」のことを言うたら、みんな「ええなぁ」って言いはるけど、結局誰もしない。他人がいてる方がいいねん。他人ならこっちを生かして、こっちを捨てたらとかも言えるやん。
ー 先ほどの「家系の写真集・千代」をはじめられたのが…平成9年ですか。
こないだも、「チヨさん、早すぎたわ」と言われました。今やったらインターネットを使って、もっと簡単に家族の写真も集められるし、やってみようという人多いんちゃう? って。
ー いずれにしろ、アルバムのカタチにして整理することが大事だということですね。
若いお母さん方を見てると、子どもの写真をいっぱい撮ってるけど、コンピュータに入れたままでプリントを作ってないことに気づいたんですよ。そのままでは整理できないし、コンピュータの画面って、ちょっと横からだと見えないでしょ。アルバムだと反対からでもどこからでも見られる。アルバムをはさんで、みんなで話ができるんです。
ー チヨさんの使ってるアルバムは大きいサイズのものが多いですね。
私はこの大きさがいいと思う。さっきの「いろは」とか、自分の20代とか、テーマを決めて整理するためにも、これくらいの大きさがある方がいい。表紙が変に子どもっぽいのはイヤやなと思うけど。表紙はシンプルでいい。
ー 「家系の写真集・千代」だと、写真のサイズも六ツ切(203×254mm)くらいの大きさはあります。
写真はね、これくらい大きくせな値打ちないと思います。ずーっと残っていくねんから。あとは、どこかのアルバム屋さんが「いろはにほへと…」って、最初から書いたアルバムをつくってくれへんかなと思ってるねん。誰かやってくれへんかな(笑)。
1941年生まれ。写真家のご主人と大阪市福島区で「フジスタジオ」を運営。1997年「家系の写真集・千代」プロジェクトをはじめる。現在はスタジオを閉め、毎週木曜日&第4日曜日に自宅を開放、「写真整理楽」(しゃしんせいりがく)の普及につとめている。『女子高生チヨ64』の作者、ひうらさとるはチヨさんの長女。