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大量の写ルンですを持って、震災後の東北へ向かった平野愛智さん。そこで被災者ひとりひとりに写ルンですを手渡して、彼ら自身が写した被災地の現実、日常をWEBサイトなどで公開しています。この「ROLLS TOHOKU」を続けている平野さんにその思いを聞きました。
「ROLLS TOHOKU」とは何か

ー 「ROLLS TOHOKU」の活動は具体的にどのように行われているんでしょうか。

僕が5、6日間、東北に行って、最初の数日の間に写ルンですを手渡していきます。それをまた回収していくんですけど、ほぼ車の中で6日間すごすような感じで、ほとんど移動ばかりしてますね。回収した写ルンですは東京で現像して、写真は撮ってくれた方に送ります。あとは、写真のデータを整理してWEBにあげるという作業になります。

ー どの写真を載せるかどうか、撮った方のチェックもあるんですか。

それはないですね。匿名にするかどうかは、回収した時点で確認していますけど。自分1人でやってることもあって、単純に人づき合いなんですね。カメラを渡したけど回収できない人もいるし、今は避難所も閉鎖されていってるから、もう会えないかなという人もいる。それでも写真を送る時には40人近くになるけど、すべて手書きで手紙を書いてますし。そうでもしないと成立しないんじゃないかと思ってるところもあります。向こうにしてみたら、直接的な支援でもないわけで。

ー カメラを配って回収して終わり、では全然ないんですね。

今は落ち着いてきましたけど、一時はサイトもものすごく見られていたのでその対応に追われました。翻訳をお願いして英語でも載せていたので、海外からのメールもすごい量だったし、サイトの写真を抜き出して、勝手なエフェクトをつけて動画で公開しちゃう人がいたりして。人によっていろいろ捉え方はあると思うけど、僕にはとてもその神経がわからないという人もいて、そういうのを1件1件対応していかなきゃいけない。それは大変でしたね。

ー 公開されている写真は3月末、5月、8月の3回分ですけど、その間の目に見えないところでの作業がたくさんある。

だから、僕としてはずっと「ROLLS TOHOKU」をやってる感覚ですね。1人なんでどうしようもないんですが。

ー 関わる人を増やしてプロジェクト化する考えはありますか?

そういう相談もありましたけど、現段階では作業の効率化はもう必要ないと思ってます。やっぱり自分の口から説明するからできることもあるし、できないこともあるわけで、僕よりもっとしゃべるのが上手な人だったら、カメラをもっと多くの人に渡せるのかもしれない。でも、これを100人に配りましょうとか、そういうものではないし、実際に自分が会って顔を覚えてやっていかないと、撮ってもらった写真に愛情がわかないんですよ。

ー そうすることで、自分の目で被災地の現状を見ることにもつながりますね。

そうですね。ただ、それを写真に撮るとなったら、踏み込める場所と踏み込めない場所があるじゃないですか。たとえば、仮設のお風呂が今こういう現状だと聞いたとしても、自分が行けないこともある。今回はそこに無理に踏み込むよりも、代わりに撮ってもらうことを選択していますね。

どうして写ルンですだったのか

ー 3月11日に写ルンですを使った「ROLLS of one week」という写真展を開催されてたそうですね。写ルンですは昔から使われてたんでしょうか。

いえいえ。実は昨年、子供が生まれて年末にがんばってハワイへ家族旅行したんですよ。その時にどのカメラで撮ろうかなと思って、普段仕事で使ってるデジカメと、このライカを持って行ったんですけど、そこで子供や家族の写真を撮ろうとした時に、デジカメでは全然撮れなかった。フレーミングなんかも感覚で把握できるけど、限りなく仕事の感覚になるというか、自分が感じたものを撮るにはこれは非常にやりづらいなと。見映えはするんだけど、その見映えがするってところに自分の気持ちを隠しこんじゃってる気がして。

ー じゃあ、旅行中はずっとライカで。

そうです。きっちり撮りきれてるか不安だから、同じものでも2回3回とシャッターを切ったりして。その感覚が面白かったので、ハワイから帰ってきて、10人くらいの知人にいきなり写ルンですを送りつけたんです、この1週間の期間に撮ってくださいって、時期を設定して。そうすると、始める日付になったその瞬間から撮る人もいれば、1日数枚ずつ撮る人もいるし、すぐに撮り終わっちゃう人もいる。それにタイトルをつけてもらって、その簡単な説明と名前、職業、この4つがあればその人の人間性がわかってきちゃうんですよ。好きに撮ったものだけを並べるんじゃなくて、撮ったものを1枚も抜粋せずに見せることで如実にその人が出てくるというか、その人自体が写りこむ。

ー 「ROLLS TOHOKU」の写真を見ていても、ブレてたり、撮った相手との距離が近すぎたりで、何を撮ったのかわからない写真もありますよね。

ピントが合ってても合ってなくてもどっちでもいい、そういう写真ってあるじゃないですか。写真を撮る初期衝動というか、写真ってこういうものだったなって思い知らされましたね。それに、他のカメラよりも人との距離が近い気がします。僕が個人的に感じてるだけかもしれないですけど。あと、余計なことを考えなくていいから、撮りはじめるとすぐ撮り終わっちゃう。楽しいんですよ。

ー 子供どうしで撮りあってるものとか、あっという間に撮り終わったんだろうなというのがわかるものもありました。

渡波(わたのは)小学校のですね。あれは子供4人に渡してみんな15分くらいで撮り終わってましたから。普通に僕も写りこんでますし(笑)。

ー あのテンションで撮っちゃう感覚、ちょっと忘れてました。

個人的には、うまく撮るってことから今はかなり距離がありますね。思ったらとりあえず直感的に。ヘタしたらのぞかないで撮っても、撮りたいものがそこに写りこんでいたら、その時の気持ちは昇華できると思ってます。

純粋な記録写真。そして、そこから派生すること

ー 「ROLLS TOHOKU」にあわせて、平野さんが撮影した写真もアップされていますが、キャプションも何もないストイックさを感じます。

メッセージを込めすぎるとどうしても多角性がなくなってしまうじゃないですか。だから、すごくニュートラルな感覚で、単純な記録としてというスタンスで1回目からやってるつもりです。写真を選んで、メッセージを強くするものだけを抜粋することもできるけど、そうすると、訴えることは出てくるけど、時間が経過していくと、写真は普遍的なものなのにそのコメントによって稚拙になってしまうこともある。それは避けたいなって。

ー 「ROLLS TOHOKU」もそうですが、確かに写真を並べるだけで十分、饒舌ですね。

だから、そこから汲みとる作業の方が大事。一般的にその訓練はあまりされてないから難しいかもしれませんが、見たい人がゆっくり時間をかけて見てくれたら、きっとわかってもらえると思います。

ー 今後の活動についてはどう考えてますか。

もちろん可能な限りやり続けたいんですけど、現実的には時間もお金もかかるので大変ですね。避難所もなくなってきてるから、仮設住宅を1軒1軒まわっていくというのも、ものすごく時間がかかる。

ー 状況は変わっていってるんですね。

それでよくなってるかというと、まだ全然進んでないですけどね。ただ、1回目に行った時はメディアの人だらけだったし、2回目はゴールデンウィークの後であちこちで炊き出しが行われていた。でも、8月に行った3回目はその炊き出しもほとんどない状態で。ただ、個人的なつながりはどんどんできてきてます。8月は南三陸町で「こども夢花火」があるのを聞いて行ったんですけど、それをやってる実行委員の人達にも「ROLLS TOHOKU」に参加してもらったりとか。

ー 1回1回積み重ねていってる感覚ですね。

そうやって少しずつ広がっていけばいい。参加してくれる人が増えるのはうれしいことなんですけど、今はそんなに増やすことに意味を感じていないので。雄勝町水浜で出会った町会長さんが、雄勝法印神楽の神楽師だったんですけど、その能面が流されてしまったということで、僕の知り合いの木彫家の人に作ってもらってるんです。そうやって「ROLLS TOHOKU」を続けることで、その単純な記録に意味が出てくるようなこと、それが大事だと思ってます。


写ルンですと一緒に配っているという用紙。
何気ない言葉に平野さんの気持ちがこもる。

取材・文 竹内厚Re:S 撮影 濱田英明(Re:S)
取材協力 torse 東京・学芸大学

平野愛智
1977年横浜生まれ。写真専門学校、制作スタジオを経て、2003年、フリーカメラマンとして独立。「ROLLS TOHOKU」はWEBでの公開の他、これまで東京やストックホルムなどでも展示された。
http://www.hiranoaichi.com/

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