ー このフリーペーパーをはじめようと思ったきっかけは?
もともとフリーペーパーや雑誌を読むのが好きで、そういう媒体で写真を撮りたいなと学生の頃から思っていたんです。それとは別に、ライブハウスによく行きはじめたのが2003年ぐらいだったんですが、その頃、お客さんが好きなバンドに取材をしてフリーペーパーをつくることがはやっていたんです。それで、私もいつかつくりたいなあと思っていて。でも、自宅のプリンターで出せるのがA4までだったから、これだけのサイズで何ができるんだろう? ってずっと考えていて。そんなときにある女性ファッション誌のフリーペーパーを偶然見つけて、それが今の『写真と人』と同じA4を8分の1に折ったサイズだったんです。そのとき、A4サイズなのにこんなことができるんだ! と思ったのがはじめたきっかけですね。
ー 毎号ミュージシャンの方が登場しますが、なぜ音楽ではなく写真なのでしょうか?
ミュージシャンなら身近にいるし、ファンの人に見てもらえるだろうと思ったのと、なぜかミュージシャンには写真が好きな人が多くて、撮ってもらった写真も音楽に通じるところがあるので、それがおもしろいなと思ったんです。それに、音楽に関するインタビューなら他の媒体がやっていることだし、私は自分が好きな写真の話を聞こうと思って。
ー このサイズに折る作業も全部ご自分でされているんですか?
今は2000部発行しているんですが、私が一人で折っています。自宅のプリンターでつくっていた頃は、まさに手作り感が満載だったんですが、印刷を業者に出すようになってからはその感覚が薄れてしまう気がして、今でも折る作業だけは自分でやっていますね。
ー この判型でこんなに写真がいっぱい見れるんだってびっくりしました。
最近は、読者の方からもっと大きくして欲しいと言われることが多いんですが、持ち帰りやすいし、かわいくて目を引くのはやっぱりこのサイズだと思います。
もし、将来的に部数が増えて誰かに手伝ってもらうにしても、これまで通り私の手元から届けていくようにはしたくて。たまに、配布されていない地域の方から、WEBからダウンロードできるようにしたらどうか? という提案をいただくんです。それは確かに便利なんですが、自分が知らないところで見てもらっているというのがあまり想像できなくて。
ー あくまでも自分の目が届く範囲で。
このフリーペーパーのカタチで見てもらうというのを前提でつくっていますね。ホームページでも全部のバックナンバーが見られるようになっているのですが、インタビューの分量や写真のレイアウトもこのカタチにあわせて編集しているので、WEBは、たとえば、本誌で掲載しきれなかった写真をアップしたりと、あくまでオマケというふうに考えています。紙になっているものがやっぱり好きなんです。
ー 誌面にはフィルムで撮った写真を使っているんですか?
そうですね。最近はナチュラで撮った写真もよく使っています。ミュージシャンに撮ってきてもらう写真も基本的にはフィルムでお願いしています。
ー そうなんですか! では、みなさん、ご自分のカメラを使っているんですか?
最初の頃は、写ルンですを渡していました。最近は、ほとんどの方が私物のカメラを使ってくれています。でも、LOST IN TIMEの海北さんは、取材を受けるためにフィルムカメラを買ってくれましたね(笑)。もちろんデジカメでもいいのですが、私はその人が限られた枚数で何を撮ってくるのかを知りたいんです。デジカメだといくらでも撮り直しができるので、いいのを撮ろうとして何度も撮り直ししちゃうと思うんです。でも私は、彼らが撮ってきたそのままの写真が見たい。
ー ほんとみなさんいい写真を撮られますよね。ミュージシャンが撮る写真が見られるのはファンの人たちも嬉しいでしょうね。
写真って、同じものでも撮る人によって全然違う写り方をするんですよね。「あー、この人っぽいなあ」というふうに、撮った「人」が写真に現れるんです。私はそれがおもしろいなと思っていて。だから、写真やインタビューを通して、その人がどういう人なのかを少しでも知りたいし、知ってもらえたらいいなと思っています。
ー 実は、『しゃしんのカタチ』第6回に登場頂いたD.W.ニコルズのわたなべだいすけさんのことを知ったのは『写真と人 vol.12』がきっかけでした。
わたなべさんのことは、D.W.ニコルズのメンバーということは知っていたんですが、歌はちゃんと聴いたことがなかったんです。でも、彼らのライブを観る機会があって、そのとき、わたなべさんがMCで「俺は自分の大事な人がいなくなるのが恐い」というようなことを言っていたのが印象的だったんです。そういう気持ちは誰にでもあると思うけど、私も、なにかがなくなるのが恐いから、それを残したいから写真を撮っているし、そのとき自分の気持ちとすごくリンクしたんです。もちろん歌がよかったというのもあるけれど、この人はたぶん私と一緒だからきっと「人」を撮るに違いない、それが見たい! と思って、その次のライブに行ってすぐに取材をお願いしました。
ー おお、すごい勢いですね。
そんなふうにして『写真と人』がきっかけで写真家の平間至さんとも出会えたし、そのあと平間さんとわたなべさんが出会ったりして、偶然とはいえ、そうやって目の前で人と人がつながっていくのがおもしろくて、『写真と人』をつくってきてよかったなって思います。
あと、わたなべさんが登場する号を読んでフィルムカメラを買ったという方が何人かいて、それも嬉しかったですね。仕事で写真を撮ったり、よく知っている人がカメラは良いと薦めるのは当然だと思うんです。でも、わたなべさんみたいに本業が別のジャンルの人が「このカメラいいよ」って言うのは、すごくリアルな言葉だから説得力があるんですよね。そうやって読んでくれている人が写真を楽しんでもらえたら嬉しいですね。
ー きっと、写真にも、人にも、チカラがあるんですよね。
『写真と人』はフリーペーパーなんですが、私の作品であり、出てくれたミュージシャンへのラブレターみたいなものなんです。正直に言うと、これをつくるのはお金のかかることだし、以前は、ただの自己満足なのかもしれないと思っていたんですが、創刊3周年のイベントをやったときに、『写真と人』のことを知らずに来てくれたお客さんがすごく楽しんでくれて、その頃くらいから、もっと自分がやっていることを好きになっていいんだなって吹っ切れました。だから、私はすごく好きなんです、この企画。今はもうかわいい我が子というか。『写真と人』が私の人生を変えてくれましたね(笑)。
取材・文・撮影 濱田英明(Re:S)
1984年鹿児島県生まれ、東京都在住。2004年3月バンタンデザイン研究所CPG本科卒業後、フリーで写心家として活動中。2006年4月フリーペーパー『写真と人』創刊、編集長。次号VOL.25は2012年1月25日に2500部発行予定。
http://nakamuramitsuru.com/