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今回私が向かったのは、九州一の大都市、博多。ご存知、明太子から、隠れた名物の博多うどんまで美食をあげればきりがなく、昼はあの料亭ランチに、夜は某銀行裏の屋台、いや、炊き餃子か? なんて食べ物のことばかりが頭に浮かぶ、私のような食いしん坊にはたまらない土地柄。

ですが、今回の目的は食ではありません。博多には以前から1度ちゃんとお話を伺いたいと思ってきた写真屋さんがあるのです。その店の名前は「近藤カメラ」。一昨年に新しくなった博多駅のすぐそばに店を構えています。そもそも、私が近藤カメラのことを知ったのは、数年前、偶然手にした写真関係のフリーペーパーで、九州の志ある写真屋さんとして紹介されていたのがきっかけ。その後、頭の片隅にはその名前がしっかりと刻まれ、直接訪れる機会はなかったものの、ずっと気になっていたのでした。

そうして、今回やっとお会いすることができた近藤カメラ3代目店主、近藤晃さん。その話、そして店を営む姿勢からは学ぶところがたくさんありました。ぜひ読んでみてください。

近藤:うちの店は昭和20年開業なんですけど、もともと、祖父が戦前にコニカの前身の六桜社で働きよったんですね。で、戦争が終わってから、地下鉄の駅でいうと博多のとなりの祇園っていう場所、そこに昔は博多駅があってですね、その駅の向かいに近藤写真材料店っていう店を出して。その当時はレントゲンフィルムとかを病院におさめたりしていたんですよ。その後、うちの親父が継いで僕で3代目になります。

高木:晃さんが継がれたのはいつ頃でしたか?

近藤:平成10年に、この建物がリニューアルしたんですよ。そのときに僕が戻ってきて。

高木:戻ってきた?

近藤:そう、その前は熊本のファストフード店で働いていたんです。高校生からバイトをしていて、そのまま社員になって。

高木:誰かが店を継がないといけないなと思いつつ?

近藤:いや、僕の上に兄と姉がいますけども、各々好きな道に歩いてますけん。だから僕も継ぐ気はなく好きなことして。別に親に反発して店を継がなかったということもなく、当時は継ぐなんてことを考えたことがなかったですねぇ。

高木:そんな晃さんに、どんな転機があったんでしょうか?

近藤:ちょうど建物のリニューアルがあったことと、あと、僕も勤めて6年くらい経ってたかな、そこそこ休みも給料もいただいて、良い生活をさせてもらっていたんですけど、もうちょっと自分で何かをしたくなるじゃないですか。ということで、手っ取り早かったのが家業を継ぐっていうことだったんですね。今から考えると、若気のいたりというか、浅はかな考えでね。当時、自分が店長していた店で何千万円と売上げをあげていたんですよ。でもそれは、結局有名チェーン店の看板があったからこそで、それを勘違いして、自分でやっても、こう、うまくやっていけるんじゃないかなってね(笑)。

高木:どうでしたか(笑)?

近藤:それがですね、ちょうど帰ってきた頃がフィルムのピークで、2、3年後にデジタルが出てきてガツン!と下がっていくっていう。あと、博多駅って2011年に新しくなったんですけど、それまでの4年間、工事期間の博多駅はもうほぼホームだけって感じで、電車に乗る人しか来ない状態だったし、この建物とつながってた駅地下食堂街との間にもずどーんと壁ができて、まったく人が通れなくなって、動線を断ちきられてしまったんですよ。その2つのタイミングが不幸にもガチ合ってしまって。

高木:これではいかんなと。

近藤:そうですね。それでしばらくは考えて考えて、でもなかなか答えは出なくてですね。そして2008年の7月に、富士フイルムさんから声かけてもらって、初めてNATURAのワークショップをしたんですよ。でも、その頃の僕はNATURAって知らなかったから、この時代にフィルムで、しかも、こんなプラスチックのカメラで人呼んで、来るの!? って、今から考えたらなんとも失礼な話ですけど(笑)、半信半疑だったんですね。で、いざ募集してみたら、25名、若い方がどっと来たんですね。もうパンパンになって申し込みを制限するくらいで。そのときに、初めてフィルムカメラ好きの若者がいるんだなって認識して。それで、これはいけるかもしれないなって思いはじめました。

高木:なるほど。

近藤:それからですね、淡い色とか、ハイキーだったり、いろいろ若い子特有な好みの色調ってあるじゃないですか。そういうのを雑誌やインターネットを見ながら研究して試しながら、そこへ自分なりの味付けをしていったわけです。

高木:近藤カメラさんでは、お客さんと写真を撮りにいろんなところに行くという「写真遠足」を毎月されてますね。それはいつからはじめられたんですか?

近藤:去年の1月ですね。これはお客さんからはじめようって言ってくれて、幹事も毎回参加者の中で順番に担当が変わっていくんですよ。もともとはNATURAとかKLASSEとかのワークショップを重ねるたびにお客さん同士が仲良くなってきて、一昨年の末に「近藤さん、忘年会してください!」って、そこで遠足の話が出て。じゃあやろうかということで、うちのホームページやmixiのコミュニティで呼びかけたら、たくさん集まって、ならば毎月しましょうって。仲間は全部で25人くらいかな? 年齢は20代から40歳まで、職業もバラバラですね。学生さんがいたりOLさん、自営の方がいたり。
若い方はフィルムカメラを持ってなかったから、最初の頃は、店でKLASSEを貸し出しして。それからみんな、NATURAとかKLASSEとかマニュアルの一眼レフカメラを店で買ってくれてね。

高木:この中では晃さんはどういう存在なんですか?

近藤:僕は告知と段取りと……事務局みたいなもんです(笑)。行き先はお客さんが決めるから、たとえば2月は八女の谷川梅林に行きたいって言われたので、じゃあ近くに、この時期だったらおひなさんを見られる所があるね、って調べたりとか。

高木:旅行代理店みたいな。

近藤:そうですよ。プランニングして。mixiとかフェイスブックとかでやりとりしたりして。

高木:写真のアドバイスはされるんですか?

近藤:いや、それはもう全然。僕は写真屋の息子だけど、これまでほぼ写真を撮ってきてなくて、こうなる以前は、はっきり言ってただの商売だったんですよ。それが、やっと彼らのような仲間達と出会えて、初めて自分自身でも一緒に写真を楽しむようになって。


「写真遠足」で糸島に行ったときに晃さんが撮影した写真。
塩づくりや醤油づくりを見学して試食して撮影してと大満喫されたそう。

高木:店を営む日常も何か変わりました?

近藤:そうですね。昔はほんとにただ仕事として写真を焼いてたのが、今はもう焼くのが楽しくて楽しくて。まずバッと画を見て、「うーん、これはどう考えて撮ったんやろうねぇ」って考えるわけですよ。それで色を合わせていって、できあがりをお客さんと見ながら「どう?」って、店頭で一緒にできあがりの写真を見ながら、いつもしゃべったりしてますよね。

高木:お客さんが撮った写真に、さらに晃さんの手が入るっていう。

近藤:そう。僕が仕上げた写真が正しかったかを直接お客さんと話して確かめるわけです。料理と一緒ですよね。

高木:ああ、それは裏切られたとしても嬉しいですよね。「おっ、そうきたか!」って。

近藤:2回、3回って通ってもらってお互いに意見を言い合って、僕の頭の中にその人のカルテができていくわけです。「福岡乙女カメラ部」という写真部があって、そこの人たちも久留米からわざわざ「近藤さんにプリントをお願いしたいから」って電車に乗って持ってきてくれるんですよ。焼いて、「どうですか?」って言ったら、「あぁ、よかった! そうそう、この海の色なんですー!!」って。そう言ってもらえると、僕も嬉しい。昔は、焼いた後の結果を自分自身も求めていなかったんですよね。きれいに焼いて、「はい、ありがとうございます」で、終了。それが今は、後から始まる会話が楽しいですよね。最近も今度の写真展で展示する作品を仕上げるためにお客さんとずっとやりとりして、お互いの意見を擦り合わせしていてね。何番の写真を柔らかめでとか、ノスタルジックにとかね、いろいろ注文があるんですよ。

近藤:で、もう最終的にはフロンティアのモニターの前で一緒に焼いたりしてますよ。それで、出てきたプリントを「どう? こんな感じ?」「もうちょっとY(イエロー)足しましょうか」「こう?」って一緒に見ながら。

高木:お客さんといい関係を築いてらっしゃいますね。

近藤:うちは雑貨をあんまり置いてないでしょう。僕は雑貨をたくさん置くスタイルを否定しているわけでは決してないし、きっかけづくりにはいいと思うんですけど、僕自身はやっぱり「カメラ屋」でありたい。技術の面で勝負したいと思うんです。で、そんな僕の想いを、今の仲間達はわかってくれたんですよ。「プリントは絶対近藤さんに持っていく」って。カメラ屋さんは今苦しいけど、最終的に残るのは、やっぱりプリントの色にこだわっているとか、カメラの使い方を教えてくれるとかの技術、本質の部分を大切にしているかどうかかなと僕は思うんです。物売りでは生き残れないんじゃないかなって。

高木:ワークショップをはじめてみようって踏み出した頃、最初はやはり試行錯誤しながらでしたか?

近藤:そうですね、時によって苦戦することもありました。その時の収支は赤字なんですよ。でも、その1回だけで見ずに、少なくてもその回に参加してくれた方々がお客さんになってくれたら、またお店に通ってくれるから。だから、たとえ赤字のときがあったとしても僕はやり続けたんですね。そうして続けていったことで、今では、こうやってお客さんからの発案で「写真遠足」をスタートすることができるような関係性を築くことができた。

高木:そうですね。

近藤:うん。僕もね、同業の人によく言われるんですよ。「ワークショップして大変やろ?」「その後もちゃんと店に来てくれる?」「先生を呼ぶ講師代とか会場代金で赤字じゃない?」とか、いろいろね。そういうときは「その後につながるんだから、やってみなさいな」って言うんですけどね(笑)。

高木:つながるかどうかは、その現場でのコミュニケーションも大事だったり、いろいろ考え出すと不安でなかなかはじめられませんね。

近藤:そうそう。一歩踏み出すのって大変です。僕もそうでした。でもね、やってしまえばなんちゃないんですよ。もう最近なんかは、「どこに行く?」「何食べる?」なんて話し合ってほんとに楽しいですから。

高木:いいですね。仕事を辞められてから、こんな状況になるなんて…。

近藤:思ってない、思ってない(笑)。ほんとに想像もしてなかったですよ。


(左上)2年前に新しくなった博多駅の屋上の、つばめの杜ひろば。ここではビルの谷間に沈む夕日を、ぜひ見てほしいとのこと。
(右上)博多の祭り山笠の、朝山のスタート地点として知られる櫛田神社。節分の時期だったため、鳥居のところに日本一大きいおたふく面が!
(左下)先日の写真遠足で訪れたという川端商店街。ここ川端町は博多で一番最初に栄えた商人の町として知られ、老舗の商店も多い。
(右下)「ハンバーグカレーがおすすめ!」という川端商店街内にあるカレー店、バークレー。やわらかジューシーで立派なハンバーグに、カレーもとっても美味。

福岡県福岡市博多区博多駅中央街2-1 博多バスターミナル バスチカ商店街
TEL:092-431-3142
http://www.kondocamera.com

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