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東京は自由が丘に店を構えるポパイカメラ。いつ訪れてもお客さんで賑わうその店は、写真好きの若者ならば誰もがその存在を知る、いわゆる「有名店」。写真屋さん+雑貨のスタイルは、まさにポパイカメラがスタートし、確立したスタイルなのです。

実は、私は今から4年前に一度ポパイカメラを取材したことがありました。当時はこのスタイルのお店は珍しく、その代表となる店としての取材。しかし時は流れ、今や全国的に雑貨を店に置く写真店は珍しくなくなりました。しかし、そんな今だからこそ、改めて石川さんにお話を伺いたいと思ったのです。

迎えた取材当日。前回は社長であるお父さんと2人で迎えてくれた石川さんは、現在店長から専務に。そして隣には店長である猪野又千恵さんとスタッフの小川祐美さん、お2人の姿がありました。

真ん中が店長、猪野又さん。
右がスタッフの小川さん。

雑貨に辿り着いた理由

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石川:うちが雑貨を置き出したのは10年くらい前で、そのきっかけも写真屋さんの敷居が高くて入りづらい、用事がないと入らないっていうのをなんとか解消したかったからなんですよ。ただ、それまではとにかく安売りみたいな方法しかなかった。でも、自由が丘には雑貨屋さんがたくさんあって、みんな用事もなく店をのぞいて、心惹かれて買っているでしょ。しかも、買わされたという感じもなく、楽しくってワクワクテンションが上がる。それがうらやましかったんですよ。で、そんな雑貨店を見ているとフォトフレームとかアルバムとか写真に絡んだものが意外にたくさんあって、「これを写真屋で置かなくてどうする」って思ったところから雑貨商品を扱うようになったわけです。

高木:ああ、なるほど。石川さんが店を営む中で、こういう風にしたいっていう目標がまずあって、たどり着いたのが雑貨だったんですね。ただ漫然と雑貨を置いたっていうことじゃない。

石川:そう。自分もまだそのころ22歳くらいで、まわりの友達はみんな薬局や文房具屋の0円プリントに出してるっていう人ばっかりで、若い人が写真屋さんに来なかったんですね。だからそういう人にも来てもらえるように。あと、ちょうどデジカメが広まりはじめた頃で、すでに撮りっぱなしでプリントしなかった。写真にもともとそんなに興味がない人はそれこそ携帯で撮って終わり。だから、それはまずいなって思って、どうしたらいいだろうって考えながら商品を仕入れてきて。

高木:そして今のスタイルになったと。

石川:そうですね。でも、うちはスタートからが長いんですよ。それこそ10年前は取引してくれる雑貨のメーカーさんがほとんどなくて地道に増やしていったんです。最初はフレームメーカーさんが1、2軒だけで、文具系の雑貨はほとんど断られて。

高木:えっ、断られるんですね。

石川:そう。でも悔しいんで、文具を卸価格で買える小売り店に自分で行って、断られたところの商品を定価の3割引くらいで買って。で、例えば封筒なら5枚入りのものを小分けにして2枚分でパッケージして、うちもちょっとは利益とれるようにして値段つけて、これで売ろうって。それが、お客さんも少しづつ買えるからって喜んでくれてけっこう売れたんですね。だから、今度はメーカーさんに「実はね、おたくの商品を自分で買ってきて小分けにして売ってるんですけど、かなり売れてるんですよね〜」って。そしたら「ぜひ取引しましょう!」って(笑)。

高木:手のひらを返すように(笑)。

石川:そうですよ(笑)。で、他のメーカーさんにも「あちらのメーカーさんの商品、売れてるんですよね〜」って話すと、「じゃあうちでもやってくれませんか」と。そうやって徐々に取引できるメーカーさんが増えていったんですよ。

高木:石川さんが写真屋さんで雑貨が売れるっていう前例を作って、土壌を整えてくれたとも言えますね。

石川:一時期はフレームだったら東京で一番種類のある店にしようって、店中フレームだらけにしたこともありましたね。フレームだけで2000点くらい揃えて、他店に卸していたほどでした。

高木:本気ですね!

石川:在庫が大変だったんですけどね(笑)。そんなことがあったりしながら、今みたいな写真雑貨がひと通り揃う店になりました。




写真屋さんのプロとして

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石川:僕はもともとプロラボにいたんですけど、そこを辞めて店を継ぐ時に「普通のお店に行ったら僕はプロじゃなくなってしまう」って思ったんですよ。だから、その話を当時の先輩にしたら、「おい、それは違うぞ」って。「お金もらう以上は、プロじゃねえか」って言われたんですね。お客さんがプロのカメラマン相手か、一般の方相手かっていう違いだけで、写真屋さんだってプロだぞと。その言葉を聞いて、「なるほど。そうだ」って、「プロの仕事をしなきゃいけないぞ」って。それで、当初から公言せずとも、色やコントラストにかなりこだわって調整してプリントしてきたんですね。でも、サービスとして打ち出してはいなかった。でもいつからか写真専門店として、そういうこともお客さんへ積極的にアピールしていかなくてはと思うようになりました。
 写真専門店としてやるべきこと。まずは3分間、お客さんと話そうってスタッフと決めたんですよ。今だったらなんだかんだで5分くらいは普通に話してるんですけど、当時はその3分が長くて話が続かなくって。それで、まずはシートを作って、明るさとか色とか、いろいろ聞くことを決めてやってみようかって始めて。そしたらちょっとずつ専門的に色についても話をできるようになってきました。それで、徐々に写真にこだわってるお店だとお客さんにも伝わっていった感じがします。でも、それも何年間か試行錯誤の連続だったんですよ。こっちもなんて聞いたらいいのか分からない。お客さんもなんて答えたらいいのか分からない。それが最近やっと確立されてきました。

高木:私自身、お店で聞かれたらどう答えようか迷ってしまいます。

石川:現場のスタッフとして、どう?

猪野又:いろんなお客さんがいて、年齢も、好きな写真も、使ってるカメラも、ポパイに来た回数もみんな違うんですね。だからまずは、少しでもお客さんの気持ちを理解しようとしてますよっていうこちらの姿勢を示しつつ、緊張をほぐしていくんです。そして、表情とか間合いとかに注目しながら汲み取っていくんですね。

高木:店側がお客さんを一つの答えに誘導していくような?

猪野又:それはありますね。お客さんは、どうされたいか決まっていない場合が多いんです。でも、心の中にはフツフツしてるものを持っておられる。いろいろスタッフが聞くなかで、一瞬「そうそうそう!」っていう表情をされる時があって、そこを見逃さないんです。

高木:なるほど。

猪野又:受付の段階で「こんなことまで聞いてくれるんだ」とか「仕上がりが楽しみだな」とか「写真ってもしかしておもしろいかも」って、良い印象を持ってもらえたらと思っていて、極端に言うとそこで8割は決まるんじゃないかとも思っています。それに加えて期待に答えられるプリントや、渡す時のちょうどいいアドバイス。そのために、スタッフもがんばらないといけないんですね。

高木:すごい! それは石川さんが教えられたものなんですか?

石川:もう、勉強会を重ねて。

高木:そうなんですね。

石川:スタッフ同士で接客のシミュレーションしたり、色の調整の仕方を細かく伝えたりだとか、多い時なら週1回はやりますね。

想いを分つスタッフの存在

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石川:10年前くらいは自分の仕事なんて必要ないんじゃないかと思ってたくらいでしたけど、今は、お客さんともいい関係を築けて、とても幸せな仕事をさせてもらってるなって思うんですよ。それは本当に店に来てくれるお客さんのおかげで、今後お客さんから求められなくなったら……まあ、もちろん手を替え品を替え頑張っていきますけども(笑)。

高木:(笑)。石川さんは絶対されるんでしょうね。そういう手応えを感じ始めたのはいつ頃からですか?

石川:ここ3年くらいですね。

高木:えっ、わりと最近なんですね。

石川:そうですね。以前は自分一人でやっていたという気持ちが大きくて、ほとんどの仕事を自分でやっていたんですね。以前は僕が店長だったんですが、他の店の人にも「店長がいるから上手くいくわけで、どうせ他の店で同じことをやっても無理なんですよ」って言われてしまうことがあって、モヤモヤしてたんですよ。いくら実績を伸ばして店の名前を知っていただけたとしても、所詮は自己満足なのかなって。自分一人でできることは限られていて、このままだと写真屋をとりまく環境が変わったっていうことにはならないなって。だから僕じゃなくてもできることを証明したくて、スタッフを育ててきました。

高木:そうだったんですね。

石川:僕自身、光が当たる部分ばかりに目を向けられるけど、地道に模索しながら店を作ってきたんですね。だから、スタッフを育てる時にも、すぐには上手くいかなくても、だからこそお互いの中で蓄積していけるものがあると思っていて。そうやって時間をかけてスタッフを増やしていけたらいいなって考えているんです。ただ、それがなかなか簡単じゃない。プロとして学んできたことを伝えたいし、見た目だけの上澄みみたいな仕事はしたくないし、やってほしくない。だから多くを伝えたくてやっぱり厳しくなるんですよ。自分と同じ立場で考えられる人を作らないとって思うから。だから、辞めていく人もいて、そんな中で付いてきてくれるスタッフは本当に大切な存在です。

高木:そうですね。お二人にもお話を伺えたらと思います。

小川:うちは、お客さんとの距離が近くて、お客さんとスタッフと、みんな一緒になってポパイカメラを作ってる感じがするんです。そこの信頼関係が大きい。密度が濃いんですよ。

高木:なるほど。

猪野又:私が、ポパイカメラのいいなと思うところは、バランスがいいことですね。どんな業界でもそうだと思うんですけど、マニアックなお店を作るのはある意味簡単なんです。でもポパイは、コアな写真好きの人だけじゃなくて、ちゃんと広く世間に向けたプロの写真屋さんでありたいと思ってやってるんです。うちは1日のなかでも、午前中は社長(石川さんのお父さん)に会いに来る年配のお客さんが多くて、お昼2時ごろには主婦の方が、夕方4時ごろは学生さんが、6時をすぎてくると会社帰りの人が多くて。で、8時すぎたりすると残業帰りの方が駆け足で滑り込んで来店されるんですね。その、どの人にもちゃんとサービスしたいと思うから必然的に商品も多くなっちゃうんですけど(笑)。フレームやアルバム置く時も、おしゃれなものだけ置くわけじゃなくて、ちゃんとどの層の人にも響くものを揃えるんです。私個人の好みだけで考えると「誰が買うんだろう?」って思ってしまうものも置いていて、実際やっぱりそれを求めてきてくれる方もいる。そのバランスを保っていたいって、専務も社長もママさんもスタッフもみんな思ってるんです。そして、私もそういう店じゃないと働きたくはなかったなって思うんですよ。




いつだって本気で

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石川:今年、横浜の商業施設に入っていた支店のみなとみらい店を閉めたんですよ。3年間でしたが、そこで学んだことはたくさんありましたね。例えば、向こうはお店の面積が自由が丘店の3倍くらいあったから、ギャラリースペースを作って初めて公募展をして。あと横浜まで人を呼ぼうっていうことで撮影会をしたんだけど、それもやると決めたら「週1回、いやもう週に2、3回やっちゃう? よし、決めた!」って、即実行。

猪野又:それもまた専務がサービス精神旺盛で。うちの撮影会は朝の10時半に集合して、自己紹介にしっかり時間かけて、それから撮影して全部プリントして写真を見せ合うまでやるから、終わるのが、一番遅かった時で夜の10時半。で、参加されたお客さんには施設の通用口から帰ってもらうっていう(笑)。

高木:もう、なんについても、やるならとことん、ですね。

石川:そう。とことんやっちゃうんですよね〜。あとね、商業施設だったので、ほかのお店の接客業としてのプロ意識には大いに影響されました。接客のミーティングとか想像を超えたもので、「こんなに考えてるんだ! こりゃ、負けてらんねえな!」って。

猪野又:意識が変わりましたよね。

石川:うちって、写真屋さんの中では接客を褒められることがあったけど、こんなん外に出たらもう下の下だわって。サービス業としては足元にもおよばない。人を楽しませるっていうことへのプロ意識とか、考え方を変えました。

猪野又:そうですね。

石川:で、結局みなとみらい店は閉めたんですが、ちょうどいいタイミングで本店のすぐ近くの物件があいたので、2号店をオープンしたんですよ。改めて、まずは自由が丘で写真を盛り上げることに集中しようって。本店はお客さんの数は多いけど、それで満足せず、2号店の方でお客さんが写真を楽しんでもらえるようなきっかけづくりをできたらと思って。それで、ギャラリーを作ったり、写真を楽しむための雑貨、とくにアルバム雑貨を揃えて。ここもね、吹き抜けの、2階のない物件だったけどギャラリーが欲しかったので大工さんに頼んで2階を作るところからはじめたんですよ。で、その後は「あとは自分たちでやります!」って、壁から何から一通り自分たちで大工仕事して。それが結構大変で、2ヶ月くらいかかったかな。

高木:すごいパワーです。そのモチベーションの源ってなんですか?

石川:喜んでくれるお客さんと、いっしょに楽しんでくれるスタッフの存在ですね。あとやっぱり、みなとみらい店で他業種のお店が日々たくさんのことを考えて店を営んでるっていうのも知ったから。僕は、いつもお客さんの期待の先に行きたくて、やりたいことは追いつかないくらいいっぱいあるんですよ。だからもう、一言で言えば「いつだって試行錯誤してます」っていうこと。いつも本気で、大振りで、力一杯なんですよね。


(上段)年に一度、自由が丘が大いに盛り上がるという熊野神社のお祭り。専務の石川さんも、社長であるお父さんも「目黒ばやし」というお囃子で参加します。その日はスタッフも皆一緒に祭りを盛り上げようと、いつも以上にワイワイにぎやかに営業するとのこと!
(下段)祭りの日の夜は必ず、同じく自由が丘の焼肉屋「京城園」へ。最後に、スタッフ全員で記念写真を。

東京都目黒区自由が丘2-10-2 TEL:03-3718-3431
http://www.popeye.jp/

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