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佐渡島に住む女の子の一年を追う写真集『未来ちゃん』(ナナロク社)で、老若男女の心をぐっと掴んだ川島小鳥さんは、デジタル全盛の今もなお、フィルムカメラをメイン機として作品をのこしています。その理由は? そして、そもそも川島さんが写真の世界に足を踏み入れたきっかけは?大勢の人で賑わう大阪の写真展会場におじゃまし、お話を伺いました。
取材・文 高木さおり(Re:S) 撮影 濱田英明(Re:S
写真をはじめるきっかけ

ー いつ頃から写真を撮られているのですか?

高校二年のときです。その頃、映画がすごい好きで、毎日映画館に行ったりビデオ借りたりして観てたんです。名作からC級映画まで、もう本当に片っ端から。それで、大学に入ったら映画のサークルに入ろうと思って、映画を撮る練習のつもりで写真を撮りはじめました。そのころは、映画監督になりたいなと思ってたんです。

ー そのときは、どんなカメラを使ってらっしゃったんですか?

最初は家にあった、35mmのスナップショットカメラですね。その後、大学に入ってからはアナログの一眼レフカメラを手に入れました。

ー 高校の時は何を撮られていたんでしょう。

その頃は、まわりの友達とか、あと風景とか……いろいろ撮ってましたね。いいな、と思ったものは何でも。

ー 大学に入られてからは?

BABY BABY』で撮っていた子とも仲良くなって、その子を撮ったり。あれは大学時代からの作品なんで。

ー その頃から人を中心に撮影されるようになったと。

そうですね。一番撮ってたのは『BABY BABY』の、あの子かもしれないけど、あとは周りの男子も撮ってたかもしれない。よくある、スナップっていう感じですね。

ー 結局、映画のサークルには入られたのですか?

入ろうと決める前、実験的に友達と映画を撮ろうってなったんですけど、そのときに、自分は複数の人と何かひとつのことをやるっていうことに、とことん向いてないんだなって気づいちゃって。そこからは、練習のつもりだった写真のほうに魅力を感じて、ずっとやってきました。で、大学を卒業してからは写真スタジオに入ったんですよ。

写真の道へすすむ

僕、就職活動とか全然してなくって、そしたら友達が見かねて「写真スタジオっていうところがあるから受けてみたら」って。それで受けてみたら決まっちゃって、いきなり社会人に。そもそも僕がなんで就職活動をしなかったかって言ったら、写真を好きでずっとやってきたけど、写真で働いてる人が何をやってるのか分からなかったからなんですよ。写真集を出してる写真家くらいなら知ってたけど、雑誌で写真を撮ってるカメラマンとか、あと写真スタジオの存在とかも全然知らなくって。そんなのんきで世間知らずでいたら、そのまま大学卒業するっていうことになっちゃって結局友達の紹介でスタジオに入ったと。

ー そこでは何年くらい働かれたんですか?

1年半ほどですね。で、その後お金がなくなってバイトしてたんです。

ー 何のアルバイトを?

それが、街の写真屋さんだったんですよ。で、ちょうどその頃あらためてこれまで自分で撮った大量のネガを見てたら『BABY BABY』の女の子の写真をいっぱい撮ったなあって思い出して。そしたら店でバイトのおばちゃんが「店が暇なときに写真をプリントしてもいいよ」って言ってくれたから、そのネガを全部一枚一枚店の『フロンティア』っていうラボ機借りて自分でプリントしたんです。

ー なるほど。

そこで改めてプリントを見ると、すごく綺麗で。「あれ、こんなに綺麗に撮れてたんだ」ってまずびっくりしました。というのは、大学生当時お金がなかったので、その頃流行ってた薬屋さんとかスーパーとかで受け付ける、すごい安い現像プリントに出してたから出来上がってきたプリントの色があんまりで、それを見て「やっぱり自分は下手なんだな」って思ってたんですよ。プラス、4年間撮り続けてたけど「友達を撮りました。以上」って感じで、自分的には「これは作品にならないだろうな」って思ってたはずが、上がりのプリントを改めて見てみたら我ながら「いいかも」って思えた。それで、その写真を全部時系列に並べてカラーコピーして、すごい分厚い本にして、まずその子に「ありがとう」ってプレゼントして。で、もう一冊同じものを作って新風舎平間至写真賞っていうのに応募したんです。そしたら、それが第10回の大賞を受賞しました。その後出版された『BABY BABY』はしばらく絶版になってたんですが、今年の3月に学研から復刊されたんです。

フィルムカメラとデジタルカメラ

ー 川島さんは、ずっとフィルムで撮られていますよね。

そうです。これまで、毎回違うフィルム、あとカメラもいろいろ使ったりとかしてきました。とにかく、どこの会社のフィルムがどんな感じかとか全然分かってなかったんで、全部実験で。でも、未来ちゃんは全部富士フイルムの「PRO400」で撮っています。

ー それはなぜですか?

なんででしょう? とにかく日本のフィルムで撮ろうっていう思いはあった気がします。感度も最も一般的な、普通の400でっていうこともあったし。普通……普通って言われたら人ってうれしくないのかな? でも、普通が一番いいなって思って選んだんですよ。で、今は全部、ブローニーも含めて「PRO400」を使ってます。

ー ネガで撮った写真、最近はどうされているんですか?

現像と、あとCDRに書き込んでもらって、そこから選んだ写真を自分で焼いたり、あとラボへ出しています。

ー ちなみに、デジタルカメラは使われるのでしょうか?

はい。仕事で指定されるときに使います。ただ、質感は圧倒的にフィルムの方が好きなんですよ。でも、例えば僕の写真をレトロとかっていう言葉で片付けられるくらいだったら、時代性もあるしデジカメだってもっと使おうと思っています。デジカメだからこそ撮れるなにかがあるはずだって思うんですね。だから、もっと自分に相性のいいデジカメがあったらいいのにって最近思っています。とはいえ、まだまだ普段遣いはもっぱらフィルムですね。『未来ちゃん』も絶対に大好きなフィルムで撮ろうと思って、プリントも全部自分で焼いたんですよ。

川島小鳥(かわしまことり)
写真家。1980年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、沼田元氣氏に師事。2006年、ひとりの少女を4年間撮り続けた作品で第10回新風舎平間至写真賞大賞受賞、2007年写真集『BABYBABY』 を発売。2010年『未来ちゃん』で第42回講談社出版文化賞写真賞を受賞。http://kawashimakotori.com/

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